『オオカミくんには騙されない』からヒントを得た、恋愛リアリティーショー×本格ミステリに込めた著者の思い
双葉文庫ルーキー大賞を受賞した気鋭・中村あき氏による最新刊『好きです、死んでください』。無人島を舞台とした恋愛リアリティーショー番組の撮影中に、連続殺人事件が起きるという本格ミステリだ。リアリティーショーという設定を活かした登場人物たちの心理戦、無人島というクローズドサークルで起きる惨劇、そして緻密にはりめぐらされた伏線が一気に回収されるラストの快感など、ミステリ好きにはたまらない1冊となった。中村氏に、執筆の背景を伺った。 ***
■「恋愛」と「殺人」。相反しながらどこか通底する二つをテーマに描くミステリ。
──『好きです、死んでください』は恋愛リアリティーショーの撮影現場を舞台とした本格ミステリですが、この設定はどのようにして思いつかれましたか? 中村あき(以下=中村):きっかけは、恋愛リアリティーショーの人気シリーズ『オオカミくん(オオカミちゃん)には騙されない』を知ったことです。同種の番組にはない特徴があって、それは恋愛のふりだけして場を引っかき回す「オオカミ」の存在です。出演陣はオオカミに惑わされることなく、誰が本気で自分を好きと言っているかを見極め、かつ自分がオオカミでないと相手に信じてもらわないといけない──要はリアルな恋愛模様に、人狼ゲームのような駆け引きや推理といった見どころがプラスされているのです。これは面白いと思って、すぐに本格ミステリに応用できないかと考えました。 ──今作は「恋愛」と「殺人」が2大テーマです。実際に作品の中でかけあわせてみていかがでしたか。 中村:「恋愛」と「殺人」のせめぎ合いというテーマは、恋愛リアリティーショー×本格ミステリの枠組みから必然的に生じたものでした。最初はどう扱ったものかと迷うところもありましたが、編集者に助言をもらいながら、少しずつ掘り下げていきました。相反しながらどこか通底する二つの感情・行為が物語ともミステリの構造とも密接に絡み合い、全編を貫く軸になってくれたかなと思います。 ──作中、番組の撮影を行っていた主人公達は、人気女優の松浦花火の死体を密室で発見し、その後も不穏な事件が起きていきます。ミステリの王道ともいえる、孤島での連続殺人を描いてみていかがでしたか。 中村:孤島での連続殺人を描くのは、キャリア2作目の『トリック・トリップ・バケーション』以来、2度目になります。ただ今回はミステリの王道をなぞりながらも、恋愛リアリティーショーという新たな要素がかけ合わさることで、今までにない新鮮なミステリになったと自負しています。見たこともない事件、聞いたこともない推理、予想だにしない真相で読者の皆様をおもてなしすることをお約束いたします。 ──リアリティーショーの撮影のため無人島を訪れた出演者とスタッフの9名はみな個性的な面々です。書いていて楽しかったキャラ、また難しかったキャラはいましたか? 中村:にぎやかなキャラたちのかけ合いはどれも書いていて楽しかったです。しいて言えば、グラビアアイドルの恋塚うるるが他の面々より少しだけ前に出たがりだった気がします。対外的なポリシーがはっきりしている子で、そこが気に入っています。