『オオカミくんには騙されない』からヒントを得た、恋愛リアリティーショー×本格ミステリに込めた著者の思い
■恋愛リアリティーショー×本格ミステリという着想を得た時に、この舞台設定でしか描けない展開や仕掛けのアイデアが次から次へと湧いてきた
──前作『チェス喫茶フィアンケットの迷局集』は独立した事件を解決していく連作短篇集でした。今作は長編での連続殺人事件ですが、書いていて違いや難しさを感じたことはありましたか? 中村:短編は紙幅がタイトな分、逆に書くべきことが器のサイズに合わせてある程度決まっていきます。一方で長編は自由度が高い分、ストーリーの緩急だったり、どこにどのエピソードを配置するかなど、全体のバランスを見ながらコントロールしなければならないのが難しいと感じます。ただ全編にばらまいた伏線を、満を持して一気に回収する解決シーンは書く側としてもカタルシスがあります。 ──探偵役の小口栞と、助手役の渚子はミステリ好き同士で、無人島で起きたこの殺人事件を独自調査しながらさまざまな推論をかわします。中村さんご自身が影響を受けたミステリ作家や作品はどのようなものがありますか? 中村:いわゆる新本格ミステリが心の故郷です。影響を受けた作家さんは数えきれませんが、特別な位置にいらっしゃるのが法月綸太郎先生。今も『密閉教室』が胸の深いところに突き刺さったまま抜けません。そこから古典にさかのぼり、私は無事エラリー・クイーン・スクールの徒となりました。この世で最高のミステリは何かと問われれば、私は『ギリシア棺の謎』と答えます。 ──ミステリ作品を書く上で、中村さんが意識していることや、気を付けている点があればお教え下さい。 中村:デビューしてしばらくは、とにかく自分の読みたいものをまっすぐ追求して、何より本格ミステリが好きな方々に届けたいと思って書いていました。ただ最近は少し変わってきていて、本格ファンに楽しんでもらえる作品を目指すのはもちろんですが、そもそもミステリにあまりなじみのない読者にも「ミステリって面白い!」と思ってもらえるような作品作りを意識しています。 ──今作を経て、次はどんなミステリを書いてみたいと思われますか? 中村:まだ舞台にしたことのない場所を書いてみたい気持ちがあります。場所というのは、プレイスという意味でもそうですが、時代だったり、あるいは特殊な設定やルールのある世界だったり……漠然とですがそんなことを考えています。そしてやはりどんな舞台で何を書くにしても、折り目正しい本格の論法に則ることにはこだわっていきたいです。 ──これから作品を読む読者へ、読みどころや楽しんでほしいところなどがあれば、ぜひメッセージをお願いします。 中村:恋愛リアリティーショー×本格ミステリという着想を得た時に、この舞台設定でしか描けない展開や仕掛けのアイデアが次から次へと湧いてきたことを覚えています。『好きです、死んでください』には、それらをできる限りめいっぱい詰め込みました。また、今回扱ったテーマに関して個人的に抱いている問題意識があったのですが、これについてもミステリという手法を用いて本作に落とし込めた手応えがあります。「恋愛」と「殺人」が絡み合う孤島へ、ぜひ老若男女問わず多くの方に足を踏み入れていただきたいです。そして物語と謎解きを楽しむ中で、あらすじや帯に書かれている〈真犯人〉とは一体誰なのか、を一緒に考えていただけたらうれしいです。 *** 中村あき(なかむら・あき)プロフィール 1990年生まれ。2013年『ロジック・ロック・フェスティバル~Logic Lock Festival~探偵殺しのパラドックス』で第8回星海社FICTIONS新人賞を受賞し、デビュー。『チェス喫茶フィアンケットの迷局集』で第3回双葉文庫ルーキー大賞を受賞。 [文]双葉社 協力:双葉社 COLORFUL Book Bang編集部 新潮社
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