アメリカ、ロシア、トルコ、イスラエル......シリアのアサド政権崩壊で各国の交差する「欲望」
長らくシリアを独裁支配してきたアサド政権が反政府勢力によって崩壊。支え続けたロシア、爆撃中のイスラエル、暫定政権に歩み寄るトルコ、政権交代間近のアメリカ。各国はどう受け止めているのか? 【写真】シリア解放機構(HTS)の指導者アブ・ムハンマド・ジャウラニ氏 ■"無血"と"まともさ"ふたつの奇跡 2024年12月8日、中東のシリアを半世紀以上もの間、強権支配してきたアサド政権が崩壊した。11月27日の奇襲から2週間足らずで首都ダマスカスまでを制圧した反政府勢力を率いたHTS(シリア解放機構)はアメリカや国連からテロ組織に指定されている。 一方、打倒されたアサド政権のバックにはロシアとイランの存在が。さまざまな国の思惑が交差するシリアで起きたこの出来事はどうとらえたらいいのか? 長年アサド政権を追ってきた軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏は「まず、この一連の流れに起きた"ふたつの奇跡"に注目すべきだ」と話す。 「まずひとつは、ほとんど戦闘が起きなかったことで不必要な流血がなかったこと。もうひとつは、反政府勢力がアラブ地域ではかつてなかったくらい理性的な行動を取っていることです」 ほとんど戦闘がなかったのはなぜか? 「前線の部隊が戦わずに逃亡し、その影響で次に控えた部隊も逃亡し、その次も逃亡し......と続く『ドミノ現象』が起きたのです。地上のゲリラ戦においてよくあることなのですが、謎なのはそれが首都ダマスカスまで波及したこと。 アサド軍中枢の戦力は残っていたはずなのに、上級指揮官たちは早々と諦めた。理由は不明ですが、結果、後半はほとんど戦闘が起きず、いわば"無血開城"しました。奇襲から打倒までの早さには専門家全員が驚きました」 もうひとつは、反政府勢力の異常なほどのまともさだ。 「HTSの指導者アブ・ムハンマド・ジャウラニ氏が出している声明などを見ると、驚くほどまともなんです。この地域で実権を握ったグループが異教徒を殺しまくったりするのは珍しくないのですが、彼は最初にシリア北部の都市アレッポを取ったときから『異教徒に手を出すな』と命令を出している。 また、前線に取り残されたシーア派の市民を安全な場所まで護衛したともいわれています。HTSはもともとイスラム主義のグループを母体にした組織ですが、今は一貫して異宗派や投降敵兵を保護しています」