アメリカ、ロシア、トルコ、イスラエル......シリアのアサド政権崩壊で各国の交差する「欲望」
反政府勢力は早速12月10日に暫定政権による閣議を開き、首相にムハンマド・バーシル氏を指名。HTS主導の下、政権移行を着々と進めようとしている。 ■各国の視点とは? そんなアサド政権崩壊を、関係各国はどうみているのだろうか。まず、アサド軍が倒れた背景には、バックのロシアが戦争で手いっぱいだったことが挙げられている。しかし、黒井氏は「今回の件にロシア軍の動向はほとんど関係ない」と語る。 「ロシアはシリアのフメイミムに空軍基地を、地中海沿岸のタルトゥースとラタキアに軍港を置き、ロシア軍の部隊を駐留させました。 しかし、彼らの多くは空軍で、反政府勢力の奇襲による機動戦に対して戦力にならなかった。アサド側は陸上部隊の援軍を要請しましたが、ロシアは断った。ウクライナ戦争の影響で陸上部隊を派遣する余裕がなかったからです」 そこにはプーチン大統領のメンツの問題があるという。 「プーチンはシリアに関して、『この地域を守る』と自分の言葉で言ったことはない。その一方で、ウクライナにおいては『〝特別軍事作戦〟を成功させる』と言っている。国益を考えれば、ウクライナ東部よりも地中海の軍港を優先すべきなのですが、プーチンはウクライナでの兵力を割くまでのやる気はありません」 続いて、南西で国境を接しているイスラエル。シリアに空爆したり、ゴラン高原に入植拡大したりしているイスラエルは何を考えているのか? 「イスラエルはシンプルで、周辺国は潜在的に敵だと考えているから周りの軍事力は潰せるときに潰したい。アサド政権と反政府勢力との力学といった話じゃないんです。 『化学兵器の流出を防ぐ』というのは口実で、迎撃されない中で爆撃できるから爆撃している。1日の空爆で、おそらく戦闘機を全機破壊しました。 ジャウラニ氏は新たなシリア国軍をつくると言っていますが、そのためのダメージは大きい。とはいえ、今イスラエルと戦争をする余力はないので、非難声明は出すけど、交戦しようとはしていない。それよりも国家再建が先だと判断しているのです」