アメリカ、ロシア、トルコ、イスラエル......シリアのアサド政権崩壊で各国の交差する「欲望」
ではそんな中で、北部で国境を接するトルコは? 「トルコがずっと敵視してきているクルド人がシリアにもいるんですが、それは東部の田舎のほうで、首都ダマスカスからはかなり距離がある。トルコはSNA(シリア国民軍)を支援してシリア東部に住むクルド人を攻めており、イスラエル同様、この混乱を最大限に利用して、介入し利益を得ようとしています」 さらに、トルコのエルドアン大統領はHTSに協力する姿勢を見せているという。 「HTSはトルコから経済的な援助などがあったわけではないのですが、武器の材料を買うなどの関係はあったので『おまえらの軍備の再建を俺が手伝ってやるよ』ということを言ってきている。 トルコはシリア新政府のバックにいるということにして、いっちょ噛みしたいんです。すでにトルコの情報部長官がダマスカスに入ってジャウラニ氏と一緒にクルマに乗っている映像も出ています」 では、アメリカはどうみているのか。国際政治学者で上智大学総合グローバル学部教授の前嶋和弘氏はこう語る。 「アメリカのバイデン政権としてはシリア地域に対して大きく3つの思いがあります。 ひとつは、IS(イスラム国)を徹底的に壊滅させたい。これが最優先事項です。その視点でいえば、イランとロシアがバックについているとはいえISが広がらないのなら......とアサド政権を容認していた側面もある。しかし、それが倒れたことで、ISの拡大を気にする必要が出てきた。 ふたつ目は、これまでアメリカが支援を続けてきたクルド人の権利を守りたい。この点はトルコと意を反するので、トルコが攻めれば攻めるほどトルコとの関係性が悪化する可能性があります。 そして3つ目は、内戦が起きてほしくない。内戦になれば、大量破壊兵器がテロリストの手に渡るかもしれない。さらに人道支援などでアメリカがいっそう介入する必要が出てくるからです。独裁政権が倒された民主化の動きは歓迎しつつも、HTSのことをまだ信用しきれてはいないので、内戦の発生を心配している。 一方で、トランプ次期大統領は、全部『俺の知ったこっちゃない』と思っている。手を出してもアメリカのためにならない、と。もし、事態が紛糾し米軍を派遣せざるをえない状態になり、米軍の死者が顕著になった場合、アメリカ・ファーストを望む支持者から反発が出てしまいますから」