ハーレクインズ留学で得たもの。平野叶翔[三重ホンダヒート/PR]
プレミアシップを二度制したことのある強豪、ハーレクインズと2023年にパートナシップ契約を結んだ三重ホンダヒート。 1年前のプレシーズンにはSH根塚聖冴とSO呉洸太が3か月弱のラグビー留学をおこない、今季はFWの選手25人が約2週間、渡英した。 その後、PR平野叶翔、HO肥田晃季、PR星野克之のフロントロー3人が残り、ハーレクインズに合流。さらに1か月半、異国の地で研鑽を積んだ。 初の海外遠征を経験した平野は、画面越しに笑顔を見せる。 「生活リズムには慣れました。左車線なのは日本と同じですし、気候も過ごしやすいです。クーラーがいらないのは大きいです」 このキャンプの目的はずばり、スクラム強化。重量級でパワフルなFWがセットプレーでも、フィールドでも前に出るイングランドの伝統的なラグビーを、若手のフロントローが体感することにあった。 「チームとして、スクラムは改善しなければいけないと思っています。例えばブルーレヴズが相手になると、戦えない部分がどうしても出てくるのが現状です」 平野自身も昨季はブルーレヴズ戦にリザーブから出場して初対戦、その強さを知った。 加入初年度は右と左の両PRを両方こなしていたが、完全に左PRにコンバートしたのは昨季から。その経験値のなさも露呈した。 「まったく叶わないと感じたわけではなく、自分の引き出しがなくて対応しきれなかった。自分が一番強化したいのもスクラムなので、そうしたところを今回しっかり学べれば、今後に繋がると思っています」 バックファイブの押しが重かったり、力を前列に加えるのが早かったり、組む前の段階でのプレッシャーのかけ合いなど、日本では味わえないスクラムを体感している。 コンタクトエリアでは、180センチながら「自分より小さい人はいない」というタフで高い強度の中で体を当てた。 イングランド代表をはじめ、各国の代表選手がそこかしこにいる環境だ。平野も「感覚がおかしくなる」と表情を崩す。 PRだけで見ても、イングランド代表で100キャップに迫るジョー・マーラー、フィン・バクスター、ウエールズ代表のウィン・ジョーンズ、ディロン・ルイス、アメリカ代表のティティ・ラモシテレ(現サモア代表)と、代表キャッパーがずらりと並ぶ。 「どんなことをしているのか、話しているのか、どんなところを見ているのか、意識しているのかをこっそり観察しています(笑)」 スクラムを指導するのはアダム・ジョーンズコーチ。元ウエールズ代表の名物PRだ。 「ヒートのスクラムは展士さん(斎藤/前・浦安DRアシスタントコーチ)が来てから、ガラッと変えている最中です。アダム・ジョーンズとは少し着眼点が違うこともありますけど、目指すところはほとんど同じ。こんな考え方もあるのか、と勉強になります。ライブスクラムはホンダの3人で組ませてもらっているので、3人でいろいろ試行錯誤しながらやっています」 一番の懸念事項だったコミュニケーションは言葉の壁こそ少しあるけれど、フレンドリーに接してくれるチームメイトに助けられているという。 イギリスの文化にも多く触れられた。 「特に代表選手は日本に行ったことがある人が多いのでよく話しかけてくれますし、この間はマーカス・スミスがご飯に連れて行ってくれたり、ジョー・マーラーが『日本語を勉強したいから教えてくれ』とカフェに行きました。ジェームズ・クリスホルム(FL)がよく面倒を見てくれて、トム・ロウデー(FL)はバーにも連れて行ってくれました。みんな親切で、家のバーベキューにも招待してもらいました」 日本のリーグワンとの違いを「よりシビアな世界」と表現する。 「代表選手に限らず選手たちの意識は高いです。競争がすごく激しいですし、Bスコッド、シニアメンバー、イングランド代表というピラミッドの中に、各国の代表選手もいる。そういう人たちと戦って勝たないと試合に出られません。厳しい世界ですけど、全員が頑張らないといけない良い環境を作れていると思います。日本はチームに入った時点で、『リーグワンの選手になりたい』という一つのゴールが達成されているように感じます」 ただ、平野もヒートに戻れば激しいポジション争いが待っている。 左PRは長らく鶴川達彦が不動レギュラーであり、さらに今季は藤井拓海がキャプテンに就任したのだ。 「大変です。ここで成長しないといけないと思っています。うかうかしてられません」 加入初年度の2季前は2試合の出場に留まったが、昨季は開幕節からリザーブ入りを果たし、7試合に出場できた。 一方で、中盤以降に出場機会がなくなり、一貫して高いパフォーマンスを発揮する難しさを身に染みて感じた。 「出られなかった2年前と少し試合に出られた去年とで、感じることが全然違いました。去年を終えて改善できる部分がより明確に、たくさん見つかりました。フィジカルやコンタクトのレベルをもっと上げないといけないし、PRの一番の仕事はスクラムなので、そこで結果を出したいです」 2024-25シーズン開幕まで90日を切った。選手とスタッフがガラッと入れ替わった新生ヒートでアピールを続ける。 (文:明石尚之)