【コラム】“ヘタレティコ”から“誇らしきアトレティコ”へ!シメオネと一試合ずつ積み重ねた13年間…今季、最強布陣でラ・リーガ制覇に挑む
■シメオネとパンくず
チョロ(シメオネ監督の愛称)にとって、アトレティコで日々を過ごすのは3回目のことだった。選手としてあのリーガ&コパ優勝の二冠を達成した彼は、一度クラブを離れたが引退直前にもう一度赤白のユニフォームに袖を通した。私がチョロと初めて直に接したのも2回目の頃だ。まだ記者として駆け出しだった私は、自分が勤める『ムンド・デポルティボ』の面々とともに、エステバンというレストランで彼と食事をしたのである。 私のチョロの第一印象は、勝負事が好きで、凄まじくポジティブで、あまりにもエネルギッシュな男、というものだった。そして、まだ選手だったにもかかわらず、まるで監督のように物事を考えていた。彼はテーブルの上のパンくずを使い、当時のアトレティコにとって最高のフォーメーションとメンバーを組んでみろと私に言った。やってはみたものの、彼の考えとはまったく違っていて、その後パンくずの配置を大きく変えられてしまった。「どうだ?」と言う彼に対して、私は心からうなずくことしかできなかった。 それだけではない。彼は「立派な記者になりたい」という私の言葉に対して、確信に満ちた表情で、こう即答したのである。 「もちろんだ。努力をすれば絶対になれるさ」 その言葉を聞くだけで、私は力強く背中を押されたような気がした。彼は天性のリーダーであり、モチベーターだった。
■“パルティード・ア・パルティード”
それから約5年を経て、チョロは監督としてアトレティコに帰還を果たした。就任会見の直後、私は彼に20分間のインタビューを行ったが、そこで説明されたアトレティコの目指すべきチーム像はあまりに明確だった。 チョロが求めたのは“パルティード・ア・パルティード(1試合ずつ戦っていく)”をスローガンとする、一戦必勝のメンタリティーを有したチームである。“パルティード・ア・パルティード”は、監督や選手が上っ面で話すような古臭い言葉だったが、アトレティコにはぴったりとはまる指輪だった。チョロはその考えの価値、大切さを再発見したのだ。 事実として、チョロはそのメンタリティーを植え付けることでチームの顔つきを変えている。選手たちは今戦っている試合だけに全身全霊を捧げ、その積み重ねによって成功をつかんでいった。その成績は、まさに圧巻である。2回のリーガ優勝、1回のコパ優勝、2回のヨーロッパリーグ優勝、2回のUEFAスーパーカップ優勝、1回のスーペルコパ優勝、2回のCL決勝進出、そして何よりも12シーズン連続でのCL出場権獲得……。シメオネはアトレティコに最たる黄金期と、財政的な成長基盤をもたらした。彼らがCL出場と残留のどちらを争うか、優勝するか降格するか分からない存在であったのは、もはや遠い過去のようである。