原発に活路見いだす米テック大手、AI開発の競争激化
米テック大手が原子力発電の活用に力を注いでいる。AI(人工知能)開発競争が激化するなか、それを支える自社データセンターに電力を供給するためだ。 各社は二酸化炭素(CO₂)排出を実質ゼロ、あるいはマイナスにするという目標を掲げ、風力や太陽光などの再生可能エネルギーを調達してきた。だが、膨大な電力を必要とするAIの普及により、これら再生エネ電力では足りなくなってきた。大型データセンターは、中規模都市と同程度の電力を消費するからだ。そこで、同じくCO₂を排出しない原子力発電に注目し始めた。 ■ アマゾンとグーグル、小型モジュール炉に期待 米アマゾン・ドット・コムと米グーグルは最近、米国の電力大手と契約を締結した。小型モジュール炉(Small Modular Reactor、SMR)から電力供給を受ける計画だ。 アマゾンは米東部バージニア州でSMRの開発を支援するため、米エネルギー大手ドミニオン・エナジーと協力する。総投資額は5億米ドル(約760億円)超である。 その一環として、原子炉と燃料技術の開発を手がける米スタートアップのXエナジーや西部ワシントン州の発電事業者エナジー・ノースウエストと契約した。アマゾンとXエナジーは2039年までにSMRによる発電を5000メガワットに増やす計画だ。 グーグルは米スタートアップのカイロス・パワーと契約し、7基のSMRの建設を支援すると明らかにした。グーグルは自社データセンター向けにカイロスから電力を購入する。20年代後半からSMRを稼働させ、500メガワットの電力供給を見込む。 ■ 実現まで数年かかるSMR しかし、これらのSMRプロジェクトは実現まで数年かかり、未実証の技術に依存していると米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は報じている。
SMRはまだ米国で商業的に導入されていない。ただ、それでも各社はSMRの展開に期待を寄せている。米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)のCEO(最高経営責任者)であるマット・ガーマン氏は、「SMRのいくつかは、20年代には何の解決策にもならないだろう」としながらも、「SMRは30年代以降に優れたエネルギー源になる」と意気込みを示した。 SMRの推進者は、SMRにおける小型設計、先進技術、建設プロセスの効率化が、従来の原子力プロジェクトの問題を回避できると考えている。工期の大幅短縮やコストの大幅削減が見込めるからだ。 ■ マイクロソフト、スリーマイル島原発から電力供給 一方、既存の原子炉を再利用したり、閉鎖された原子炉を復活させたりするといった動きもある。 例えば、米マイクロソフトと米大手電力コンステレーション・エナジーは24年9月、東部ペンシルベニア州のスリーマイル島原子力発電所で運転停止している1号機を再稼働させる契約を締結した。 コンステレーションは約16億ドル(約2400億円)の費用を投じ、28年初頭までに原子炉を再稼働させる。マイクロソフトはコンステレーションと20年間の電力購入契約を締結しており、自社のデータセンター事業に電力を供給する。 ■ 30年までにカーボンネガティブ目指すマイクロソフト こうした動きはテック大手にとって「大きな賭けだ」とWSJは指摘する。マイクロソフトのCO₂排出量は、23年6月までの3年間で40%増加した。グーグルの排出量は23年12月までの4年間でほぼ50%増加した。マイクロソフトは、より多くのクリーンエネルギーを調達することで、30年までにカーボンネガティブ(CO₂排出量実質マイナス)を達成するという目標を掲げている。 しかし、電力需要はAIの普及で増大の一途をたどっている。クリーンエネルギーの調達競争は今後ますます激化するとみられる。WSJによると、米東部バージニア州は世界最大のデータセンター市場の1つだが、ドミニオン・エナジーは同州の電力需要が39年までに倍増すると予想している。 国際エネルギー機関(IEA)の調査報告によると、22年に460テラ(テラは1兆)ワット時だった世界のデータセンターの電力消費量は、26年には2.2倍の1000テラワット時になる見通しだ。
小久保 重信