【新幹線の”道”を支える匠の技】職人の五感のセンサー、ミリ単位のレール異変も見逃さないプロ集団
見て聞いて乗って分かる新幹線の「足元」を支える技
普通の人には真似できない〝匠〟ならではの技はあるのだろうか。2人に尋ねると、まず保坂さんが口を開いた。 「レールをちょっと見ただけで沈んでいるかどうかわかります。この部分が低くなっているからちょっと上げよう、とか」 一見、まっすぐのレールも実際は列車の荷重によって一部が沈み、微妙に波打メっていることがあるという。目で確認できる沈みとは数センチメートル単位なのかと聞くと、「センチではなくてミリ単位です」と保坂さんは言った。 さらに、保院さんが補足してくれた。 「私たちがわかるのは4~5ミリですが、協力会社の職人さんなら1ミリでもわかります」 それだけではない。現場の職人さんたちはちょっとした線路に敷かれたバラスト(砕石)の色の違いから異変を予想できるという。 「バラストがちょっと白くなっていたら、それはバラストがこすれて粉が出ている証拠。バラストがこすれるのはレールと枕木の締結が緩むなどして列車通過時に枕木が振動するからです。だからバラストが白くなっていたらレールが枕木にしっかりと固定されていることなどをチェックする必要があるのです」(保坂さん) その時点では基準内に収まっていたとしても、数カ月後に保守が必要になるかもしれない。現場の職人たちが持つ五感のセンサーは、ドクターイエローで検知する前の些細な線路の歪みさえキャッチすることができるのだ。 保線のプロは列車に乗っていて線路の状態を感じることができるかと2人に尋ねると、即座に「わかりますよ」と返された。 「ぼんやりしていたら気づかないかもしれませんが、意識していれば、ここはレールを換えたんだろうなということがわかります」(保院さん) 「揺れだけでなく、音も変わります」(保坂さん) 新幹線の乗り心地──。これまで300系、700系、N700系、N700A、N700Sと新型車両が登場するたびに乗り心地が向上されてきた。しかし乗り心地とは車両だけで実現できるものではない。そこには昼夜にわたる保線作業員たちの知られざる苦労もあった。 目下の課題は人材確保だ。「こういう仕事があることを知らない人が多いかもしれない。知ってほしいなあ」と保院さんがつぶやいた。
大坂直樹