県内三冠達成の近大和歌山、10回目の選手権出場が決定!! 初芝橋本は“三度目の正直”ならず:和歌山
[11.10 選手権和歌山県予選決勝 近大和歌山高 2-1 初芝橋本高 紀三井寺公園陸上競技場] 【写真】影山優佳さんが撮影した内田篤人氏が「神々しい」「全員惚れてまう」と絶賛の嵐 第103回全国高等学校サッカー選手権大会の和歌山県予選決勝が10日、紀三井公園陸上競技場で行われた。舞台に上がったのは、2大会ぶりの優勝を狙う近大和歌山高と2連覇を目指す初芝橋本高。新人戦と総体予選、いずれも決勝戦で相見え、PK戦にまでもつれ込んでいた両校の対戦は、近大和歌山が2-1で勝利した。近大和歌山の藪真啓監督が「チャンスがあったのでシュートを決めたかったところもあったし、相手に決められなくて良かったところもあった。非常に厳しい試合だった」と振り返ったとおり、シュート本数は互いに9本。どちらにもトロフィーに届く可能性が見えるゲームだった。 立ち上がり早々にスコアを動かしたのは、初芝橋本。MF山本悠汰(2年)がCKを蹴り入れたあと、PA内で相手チームのハンドがあり、PKを獲得。10番を背負うFW河崎慶二(3年)が自ら名乗り出て、キッカーを務めた。近大和歌山のゴールを守るのは、PK戦でここまでの県内タイトル2冠に貢献してきたGK高本陽史朗(3年)。新人戦決勝のPK戦では河崎の蹴ったPKも止めており、今回もボールには触っていたものの、河崎が「この方向に蹴ろうと決めていた」力強いシュートを止め切ることができず。初芝橋本が先制点を挙げた。 その後も、初芝橋本は河崎やFW川上優(3年)、MF児島由汰(2年)などが相手選手を巧みに剥がしてゴールに迫るシーンを作るが、追加点は奪うには至らない。その間にペースを掴み始めた近大和歌山が、徐々に相手陣内でチャンスを作り出す。37分には、MF佐久間瑛介(3年)からのパスを受けたDF中西荘太(3年)がクロスを上げ、MF中俊哉(3年)がゴールネットを揺らした。近大和歌山が前半のうちに同点に追いつき、前半を折り返した。 一進一退の攻防が続く中、後半17分、近大和歌山が勝ち越し点を奪う。左CKから中がニアサイドに入れたボールを中西が頭で後方にそらし、ファーサイドにいたDF岩崎惺(3年)が「頭で合わせにいくつもりだったけれど、(中西の)フリックがたまたま良いところに来たので、触るだけだった」と、ダイレクトで左足を合わせてゴールに叩き込んだ。 追う立場になった初芝橋本は、FW後藤恒之介(3年)のFKやDF河野陽夏(2年)、FW四元大悟(3年)のシュートでゴールを狙ったが、枠を捉えることはできず。最後まで懸命に走ったが、2-1のままフルタイムを迎えた。 2月の新人戦、6月の総体予選でPK戦にもつれ込んだ際は、いずれも延長戦を終えるまでスコアレスだった。今年3度目の決戦にして初めて前後半のみで決着をつけた近大和歌山は、「夏以降、練習試合でも得点することが増えていたクロスの流れ」(佐久間)と「1年間練習を重ねてきたセットプレー」(岩崎)で逆転し、2-1で2年ぶり10回目の優勝を果たした。 近大和歌山のキャプテンを務める佐久間は、「今回こそはスコアを動かすことができると自信を持って、試合に臨んだ」という。「初芝橋本はプリンスリーグ関西で戦っているので、夏よりも成長して強くなっているだろうと不安もあったけれど、最後まで諦めずに走り、勝利に繋げることができて良かった」と頬を緩ませた。 藪監督は、選手たちのここまでの様子を振り返り、「1年生の頃からAチームで見ている選手もいるので、その分、これまで叱る場面もたくさんあった。でも最近は、自分たちで朝や勉強の合間を縫って集まり、トレーニングをしていた。試合中も含め、自立してくれた」ことが勝利に繋がった要因だとし、選手たちの成長を讃えていた。 夏の全国大会では、1回戦は勝利したが、2回戦で敗れている。「ベスト16、ベスト8と上がっていくことができていないので、次は勝ち上がっていきたい」と目標を語った佐久間。全国大会までの残された時間で、目標を達成できるだけの成長をさらに重ねていきたい。 他方、準優勝となった初芝橋本の阪中義博監督は、試合後は「悔しいので、あまり喋れることはない」としながらも、「でも、これだけは胸を張って言える。選手たちは本当にがんばってくれた」と、力を込めて語っている。試合後、応援してくれた人たちへの挨拶でも、阪中監督は、このように話していた。「選手たちは本当によくがんばってくれた。自分の力が足りなかったので、彼らを勝たせてやれなかっただけ。だから、彼らの成長を讃えてやってほしい。こんなにがんばってくれる選手と出会えて、幸せだ」。 振り返れば2月の新人戦決勝のあと、選手たちの様子から、1年間でどれだけ成長させることができるかについて阪中監督は不安を感じているようだった。今年は、プリンスリーグ関西2部でも厳しい戦いが続いていた。涙をこぼしながら語っていたこの言葉に、偽りはないだろう。「大会中にも、選手たちの成長を見ることができた」ことを生かして、今大会では主将ではなくマネージャーとしてチームを支えた福本悠二(3年)を含めてチーム一丸となり、残されたリーグ戦で勝利を掴みたい。 なお、この決勝戦が行われる1週間前、全国的に荒天に見舞われていた2日に行われる予定だった今大会の準決勝は、県内でも暴風警報が発令されたため延期となった。紀三井寺公園陸上競技場を使用したい他競技の承諾を得た上で予備日を4日に設定していたからこその英断だった。順延された4日、天候にも恵まれた中で近大和歌山と近大新宮高、和歌山北高と初芝橋本の2試合が行われている。 今年2月に行われた第76回近畿高等学校サッカー選手権大会で準優勝を果たしていた近大新宮は、まだ未踏の県大会決勝の舞台には今年も届かず。エースとしての活躍を期待されていたMF弓場蒼太(3年)は、「自分が決勝に連れて行く」と気負っていただけに、競技場を出たあとも自分の未熟さを省みては涙を流し続けていた。 和歌山北は、初芝橋本に先制されたものの、MF隅田隼多(3年)のゴールで同点に追いつく白熱した一戦を繰り広げただけに、アディショナルタイムで勝ち越し弾を許したことは、さぞ悔しかったことだろう。パントキックでカウンターのチャンスを生み出していたGK味村優希(3年)が表彰式のあと1人でピッチに戻ってきて、時折タオルで顔を覆いながら何かを噛み締めているような様子だったことも印象的だった。 それぞれ悔しさはあれども、両チームともに素晴らしい環境の下、悔恨を残すような不運もなく、積み重ねてきたことを披露した。決勝戦後に初芝橋本の河崎が「阪中監督が自分たちの健闘と成長を心から認めてくれていたことが、めちゃくちゃうれしかった。それを糧に、また次のステージに進んでいける」と語っていたのと同じように、準決勝で敗れた選手たちもまた、「成長できたこと」「もっと成長したいこと」を手に、未来へと進んでゆけることだろう。選手ファーストで今大会の運営を行なった和歌山県高体連サッカー専門部に敬意を表したい。 (取材・文 前田カオリ)