【GQ読書案内】仕事や働き方に対する価値観をアップデートしたい──「若者と社会/仕事」にまつわる3冊
明るい転職のすゝめ
ひらいめぐみ『転職ばっかりうまくなる』(百万年書房) 最後に紹介するのは、「圧倒的成長をしたくない人」に送る、明るい転職エッセイだ。 著者のひらいめぐみさんは、1992年生まれ。大学在学中は就職活動をせず、卒業後もコンビニやアパレルの倉庫でのアルバイトを続けていた。学生時代にも、洋食店のホールスタッフやカフェ店員、塾講師に出版社の営業・事務などを経験しながら、就職にこだわる必要はないと考えていた。 しかしある日、アルバイトを掛け持ちして体調を壊し、時間を換金するには限度があると身をもって知る。そして一念発起した彼女は、卒業後1年以上を経て就職活動を開始した。本書は、そこから就職し、さらに20代で6回も繰り返した転職と、転職先での就労の体験談がつづられていく。 あらためて考えると、そもそも「転職がうまくなる」とはどういうことか。ひらいさんは、独立して文章を仕事とし、発行した個人誌や著書も話題を呼んでいる。表面的な現状だけを見れば、それは転職がうまくなってたどり着けた結果とうつるかもしれない。しかし読んだ人は感じると思うが、実際のところ、彼女は転職「は」うまくなっていってはいない。面接や就労後の振る舞いがこなれたわけでも、単純な意味でのキャリアアップを積み重ねているわけでもないのだから。 しかし、この長い時間と出会いの中で、さまざまなものを自分の中に蓄積していったことが伝わってくる。例えば、仕事選びで最も大事なのは「自分がみじめにならないかどうか」だという価値観に気づく。また、元同僚や上司との付き合いは今も続き、「転職の数だけ人生の味方が増え」ていると言えている。転職とは、結局一つのアクションにすぎない。大切なのは、何をおいても自分自身が健やかにいられるように動ける自分であること、なのだと学び直した。
贄川 雪(にえかわ ゆき) 編集者。本屋plateau booksの選書と企画担当、ときどき店番(主に金曜日にいます)。 本屋plateau books(プラトーブックス) 建築事務所「東京建築PLUS」が週末のみ営む本屋。70年代から精肉店として使われていた空間を自らリノベーションし、2019年3月にオープン。ドリップコーヒーを味わいながら、本を読むことができる。 所在地:東京都文京区白山5-1-15 ラークヒルズ文京白山2階(都営三田線白山駅 A1出口より徒歩5分) 営業日:金・土・日・祝祭日 12:00-18:00 WEB:https://plateau-books.com/ SNS:@plateau_books 編集・神谷 晃(GQ)