【GQ読書案内】仕事や働き方に対する価値観をアップデートしたい──「若者と社会/仕事」にまつわる3冊
等身大の批評から、今のしんどさを考える
飯田朔『「おりる」思想 無駄にしんどい世の中だから』(集英社) 本の帯には「ぼくたちは競争に勝って生き残らなければならないのか」というストレートな問いが。新進気鋭の若者による、息苦しい社会に対する問題提起の一冊かな?……そう思って読み始めたが、実際はそればかりではない。正直に驚いた。これはとても新しい批評の本である。 大学に馴染めずひきこもり生活を送った飯田朔さん(1989年生まれ)は、卒業後もアルバイトだった学習塾講師を続け、その後「何もしない」ことを目的にスペインに1年間滞在する。帰国後も、講師やウェブでの執筆などはしているが、フルタイムで働いたことは今もない。 今作は、そんな飯田さんの初めての書籍だ。映画『プーと大人になった僕』『パディントン』の能動的なクマたち、深作欣二監督の『バトル・ロワイアル』などに見られるサヴァイヴ観、書籍や漫画『安心ひきこもりライフ』『みちくさ日記』『ナリワイをつくる 人生を盗まれない働き方』に学ぶ競争社会の脱し方、そして作家・朝井リョウの小説の精読。これらを経て、自分たちを包み込む「無駄なしんどさ」の正体を解き明かしていく。 本書を紹介してもらったとき、私が大学生だった頃に、日本の窮屈さから逃れてアジアの街で「外こもり」する若者たちが話題となったのを思い出した(下川裕治『日本を降りる若者たち』(講談社、2007年))。時代も状況も違えど、若者に生き抜くためと競争を強い、経済や大人の都合で成長し続けることを賞賛する社会に巻き込まれずに生きていくには。問題の根源は今も変わらないのかもしれない。 しかし本書の新規性と重要性とは、著者である飯田さんがそれを自分ごととして発信していること、それが批評を通して紡がれたことにある。いわゆる大文字の言葉や、従来の批評家に感じる他人事のような目線はまったくない。言葉づかいから、自分の思考と言葉で一歩ずつ考え、真摯に批評をしていることが伝わってくる。朝井リョウの作品批評は、同世代だからこその説得力だった。