【GQ読書案内】仕事や働き方に対する価値観をアップデートしたい──「若者と社会/仕事」にまつわる3冊
編集者で、書店の選書担当としても活動する贄川雪さんが、月に一度、GQ読者におすすめの本を紹介する。今月は、「若者と社会/仕事」がテーマ。 【写真を見る】「若者と社会/仕事」を考える3冊をチェック!
今月は、ざっくりと表現すれば「若者と社会/仕事」にまつわる本を紹介します。この括りや言い方をしていること自体がもう良くない、と重々感じ、同時に情けなくもあります。しかし、人に易々と訊けないことや、自分の生活圏では出合うことが難しい体験や価値観を知り学べるのが読書の醍醐味の一つと信じ、紹介したいと思います。
スタートラインに立つための1冊
金間大介『静かに退職する若者たち 部下との1on1の前に知っておいてほしいこと』(PHP研究所) 笑顔の1on1ミーティング(以下、1on1)の翌週、退職代行サービスから連絡が来る。意思疎通を確認したと思っていた若者の突然の退職は、その上司やメンターにとって寝耳に水に違いない。 本書は、こうしたすれ違いの原因を解き明かすべく、職場の実態や現在の若者の思考を多面的に考察するもの。著者の金間大介さんはイノベーションの研究者で、自らも大学教授として指導学生に向き合う立場にある。前作『先生、どうか皆の前でほめないで下さい いい子症候群の若者たち』(東洋経済新報社)も大きな反響を呼んだ。 本文は、主に3つに分けられる。第1部は「『1on1の前』に知っておくべきこと」として、見落とされがちな課題や必要なスキル、若者の本音を分析し、今後どのように若者と向き合うべきかを指南する。第2部は「なぜ、若者は突然会社を辞めるのか?」。退職代行サービスを使う若手社員、ホワイト企業でさえ不安に感じる現象、アメリカ発の静かな退職との比較、理想の上司像、とにかく正解を教えてもらおうとする姿勢など、現在の若者像の解像度を上げていく。第3部では、これらに基づき、どうやって共に働いていくべきかが提案される。 本作には、現状のディスコミュニケーションを改善したいという切実な願いが込められている。それでも、読後はやはり虚しさが残る。この本に納得させられるのは、自分が彼らの気持ちをわかっていなかったことの証左になってしまうからだ。加えて、この場所(本の中や読者)に、当事者である若者がほぼ不在に感じたことも歯がゆかった。エキスパートの力作である本書によって不安が取り払われ、救われた気になっているのは、結局私たち上の世代だけだから。 この本を読んですっきりしたり、若者をなんとなくわかった気になったりするのはお門違いだ。「そういうとこだよ!」とすぐさま見透かされるだろう。あくまで、スタートラインにようやく立つために読む、そんな本なのだ。そして同時に、この本を読んだ若者たちに感想を聞きたい。