「人生詰んでる」女子のヤバい課外活動、男子バレー髙橋藍大推薦の青春部活小説、眩しすぎる修学旅行の「ある一日」。令和の高校生が主人公、「Z世代」を体感する傑作小説6選(後編)
織田作之助賞受賞作にして、著者は本作で芸術選奨も受賞
令和に描かれた小説ですが、普遍的な文学が持つ言葉の力、時代を超えた輝きが、この作品にはあります。それは、先に引いた作者の創作スタンスにもあるように、今この世界をとことん目に焼き付け、書き留めようとしているから。 作者は小学生から高校生までが通う、小さくてアットホームな塾で、長年講師をしていました。その時の子どもたちとのコミュニケーションの記憶が、のびのびとした高校生たちの描写に生かされているのでしょう。 また宮沢賢治やつげ義春、児童文学者の長崎源之助や漫画家・アーティストのタイガー立石、ミュージシャンの奥田民生など、さまざまなジャンルの表現者たちの作品が誠たちの心の中で生きていて、そのことも作品全体の土壌と物語の説得力に奥行きを与えています。 本作は第169回芥川賞の候補作となり、第40回織田作之助賞を受賞し、乗代さんは本作で令和5年度(第74回)の芸術選奨文部科学大臣賞にも選ばれています。 「彼らの冒険は小さいけれど切実さがある。ウエルメードな(筋書きがよい)物語に見えるが、苦闘して書いている乗代さんの姿勢にも感動した」(織田作之助賞選考委員・古川日出男さんのコメント) 「小説の面白さを知ってもらうためにも、是非多くの若い読者に読んでもらいたい作品」(芸術選奨・贈賞理由より) ――――ー 三者三様ならぬ三作三様の高校生活。つねに万事快調とはいかないし、道に惑うこともあるけれど、次に進むためにどうしても必要なことから目を背けず、小さな冒険を積み重ねていく中で、人生は進んでいきます。 高校時代のみならず、大人になっても、あるいは老境に達しつつあったとしても、人生において大切な「スタンス」のようなものが、この三作にはしっかりと刻まれています。
「本の話」編集部/本の話
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