学校のアンガーマネジメント―部員にイライラする部長へのアドバイス
事例4 部長になってイライラが止まらない高校2年生
高校3年生の引退に伴い、部活動の役員が一新されました。吹奏楽部の部長になった2年生の女子生徒は、先輩の姿を見てきたので、自分もできると思っていたようです。しかし、結果を求める余り、部員への要求が強くなっていました。そのような中、県大会会場への移動の際、問題が顕在化。集合時間を巡ってキレてしまい、部員からの信頼を得られず、手に負えなくなりました。
子どもはなぜ“キレる”のか イライラの理由がわからない
吹奏楽コンクール県大会前日、部長は「8時からバスに楽器搬入、部員集合は7時40分」と指示しました。しかし当日、部長は集合してくる部員に対して態度や言葉を変え、キレている状態でした。 実は、部長は「集合時刻のさらに10分前、7時30分に来るのが当たり前」、「7時39分までに来ればよい」「7時40分ぎりぎりなんてあり得ない」と考えていました。ですから、7時30分に来たA さんには自分の考えと同じなので「OK」、7時35分に来たBくんには「少し遅い」、7時40分に来たCさんには「遅刻」と決めつけて怒りました。 部長は自分の思いを伝えないまま、感情のままに部員を責め立てていたのでした。このとき部長は、自分がなぜそうした言動をするのか、理解していませんでした。一方で、部員は部長の判断基準を知らないので、部長の言動が理不尽にうつり、不信感を抱いてしまいました。出発時には部長の怒りの感情が全体に広がり、コンクールへの意欲が消え去るほどの混乱を招いてしまいました。吹奏楽部が目標としていた晴れ舞台の出鼻をくじかれていたのです。
アンガーマネジメントを取り入れた対応 思考のコントロール「三重丸」
アンガーマネジメントの3つのメソッドのうち、2つ目を学びます。12月号で紹介した衝動のコントロールができたら、怒る必要があることと怒る必要がないことの線引きを、 思考のコントロールの図を使ってできるようにしていきます。「自分の『べき』と違うな」と感じ、イラッとしたら、自分の三重丸がどうなっているのかを考えるくせをつけます。 ①一番中心にあるのが許せるゾーン。100点満点。相手の言動が自分のべきと同じであれば怒ることはありません。 ②その周りがまぁ許せるゾーン。自分のべきとは少し異なり、軽くイラッとしますが、まぁ許せる範囲です。 ③その外にあるのが許せないゾーン。自分のべきとは全く違い、怒らなければいけないこと。 部長がイライラしていたのは自分の三重丸が自分で見えていないからです。さらに、②のまぁ許せるゾーンが狭いため、自分と違うことに対する受容度が低くなり、怒る回数が増えていました。 怒るか怒らないかを決める境界線は②と③の境界線です。ここに書かれているのが「後悔」という文字です。怒っても後悔しない、 許せないゾーンの③に入ることならば怒って良いのです。さらに、思考のコントロールの3つの努力に取り組んでいきます。 1.まあ許せるゾーンを広げることができないか を努力する。「せめて」「少なくとも」のキーワードを使って考えます。 2.まあ許せるゾーンは際限なく広げるのではなく、一定にする努力。いつでもどこでも誰に対しても同じ基準で怒ります。 3.自分の許せるゾーン、まぁ許せるゾーン、許せないゾーンを言葉にして説明する努力。 ②のまぁ許せるゾーンに入れることができれば怒る必要がないことなので、ここで終了です。イラッとするたびに、自分の三重丸がどうなっているのか、どう努力するのかを考えていきます。 川上 淳子 一般社団法人日本アンガーマネジメント協会認定アンガーマネジメントシニアファシリテーター。Edu Support Offifice代表。元宮城県公立小学校教諭。元国立大学法人宮城教育大学非常勤講師。 *『月刊教員養成セミナー2023年1月号』 コロナ禍を経て、なお先行きが見えない今、教室を安心安全な居場所とする働きかけが急務です。アンガーマネジメントの理論と方法は、児童同士、児童と担任を繋ぎ、よりよい関係づくりに活かすことができます。場面指導でも問われるケースを解説します!