「読むたび胸に刺さる…」記憶に残る「古谷実作品」超強烈キャラの“ダメ人間”たち
■シリアスとギャグのバランスが絶妙!『僕といっしょ』伊藤茂
1997年からは、『週刊ヤングマガジン』で2作目の連載となる『僕といっしょ』がスタートした。同作はコミックス全4巻と短めながら、キレキレギャグがてんこ盛り。登場キャラの濃さも相まって、爆笑必至の作品だ。 その一方で、序盤から義父に「死ねばよかった」と言われた先坂すぐ夫と弟・いく夫を中心に、キャラたちの重い生い立ちが描かれる作品でもある。ダークなネタが随所に散りばめられている作品の根底には、“人生”というテーマがあり、笑いの中に切なさや不条理感が漂う漫画でもあるのだ。 家を出た先坂兄弟が、上野で初めて話した人物がイトキンこと伊藤茂だった。イトキンは、辮髪にタトゥーという気合の入った風貌と、臆病で根性なしというギャップを持つ人物。さらに捨て子という生い立ちで、児童養護施設を脱走して窃盗や空き家を不法占拠しながら生きていた。タトゥーは、睡眠薬を飲まされ知らぬ間に彫られたものだ。 先坂兄弟や進藤カズキと出会いヤングホームレスになるも、理髪店を営む吉田家に引き取られる。実母が近所にいることも発覚したが、対面はしていない。シリアス感をギャグに昇華しているため重苦しい雰囲気はないが、なかなかにヘビーな生い立ちである。 イトキンは吉田家でもクレイジーな行動を繰り返し迷惑をかけまくった。一方で、自分のダメ人間ぶりを理解しており、現実的なものの見方をすることもしばしば。ちなみに、究極の夢は結婚だ。 だが生活が賑やかになるにつれ、次第にシンナーも吸わなくなりイトキンの寂しさも減っていく。過去の自分が現れた際に「平和ボケでもなんでも結っ構ーーだ!!オレは今幸せだ!!」と叫んだり、自分を拾ってくれた吉田父に感謝を述べたりと、孤独な彼にとって吉田家の生活は暖かいものだった。 後の『グリーンヒル』には、明記されていないものの、イトキンと推測される伊藤茂というメンバーが登場している。結婚してしげ美・いく夫という子どもをもうけ、理髪師になっている。