「両乳房切除術」を受けても乳がんで死亡するリスクは減らない…海外の研究で明らかになったことを解説
乳がんの宣告は誰にとっても大きなショック。そのショックが薄れたら、多くの人は生存率を高めるために、そして二度と同じ経験をしなくて済むように、できることをしようとするもの。 【写真】くっきりと残る「両乳房切除の傷跡」を堂々と披露したオリヴィア・マン ところが、腫瘍学専門誌『JAMA Oncology』に掲載された新たな研究結果によると、両乳房切除術(文字通り両方の乳房を切除する手術)を受けたところで、他の手術を受けたときより乳がん診断後の生存率が高くなるわけではない。 医師たちいわく、この結果は絶対とは言えないものの、乳がん患者のケアに関する多くの疑問を投げかけている。アメリカ版ウィメンズヘルスからより詳しく見ていこう。 ※本記事は、アメリカ版ウィメンズヘルスからの翻訳をもとに、ウィメンズヘルス日本版が編集して掲載しています。
この研究で明らかになったこと
研究チームは、2000年から2019年の間に、片方の胸に何らかの乳がんが見つかった66万1000人以上の女性のデータを分析。その結果、乳房部分切除術(腫瘍と腫瘍周辺の組織は切除されるが、乳房の大部分はそのまま残る)や片乳房切除術(片方の乳房が完全に切除される)を受けた場合、もう片方の乳房ががんになる確率は7%であることが分かった。 しかし、この研究では、両乳房切除術を受けたところで生存率が上がるわけではないことも判明。20年に及ぶ研究期間中に乳がんで亡くなった女性は、乳房部分切除術を受けた人で8.5%、片乳房切除術を受けた人で9%、両乳房切除術を受けた人で8.5%だった。 そのため研究チームは、両乳房切除術はがん予防の「効果的な手段」ではあるけれど、それを受けても「乳がんで死亡するリスクは減らない」と結論付けた。
医師の見解
この分野の医師たちは、この結果に全く驚いていない様子。「私たちには昔から分かっていました」と話すのは、米プロヴィデンス・セント・ジョン・ヘルスセンター付属マージー・ピーターセン乳がんセンターのディレクターおよび乳がん腫瘍外科医で、米セント・ジョンがん研究所外科助教授のジャニー・グラムリー医学博士。「患者の中には大きな手術を受けなければならないと考える人が多いですが、私たちは両乳房切除術によって生存率が高まるケースを見たことがありません。ただの一度もないのです」 米モフィットがんセンターの腫瘍外科医、ブライアン・ゼルニキ医学博士も同じ意見で、「両乳房切除術に生存率上のメリットがないことは何年も前から分かっていました。ほとんどの人は、美容目的か左右を揃える目的で両乳房切除術を受けています」と語る。 ジャニキース博士自身も、今回の研究結果は医学界ですでに知られていることを裏付けているに過ぎないと考えている。「両乳房切除術で乳がんによる死亡率が低下しないことは過去の研究で証明されており、私たちの研究結果もそれに一致しています」