「いつもとは違う15分間」のベースになったのは「いつも通り」を貫くマインド。実践学園は終盤の決勝点で駒澤大高を振り切って7年ぶりの全国に王手!:東京B
[11.10 選手権東京都予選Bブロック準決勝 実践学園高 1-0 駒澤大高 味の素フィールド西が丘] 【写真】ジダンとフィーゴに“削られる”日本人に再脚光「すげえ構図」「2人がかりで止めようとしてる」 1年間を掛けてみんなで共有してきたブレない『いつも通り』のマインドは、その立つピッチがどこであっても、戦うステージがどこであっても、揺らぐことはない。それは西が丘という最高のピッチだからこそ、選手権予選のセミファイナルという最高のステージだからこそ、よりその積み上げてきた真価が発揮されたのだ。 「最初はいつもより長いボールを使うことはより意識していましたけど、どこかのタイミングからしっかり繋ぐということはミーティングでも共有していましたし、ボールを落ち着けたタイミングも良かったのかなと。そのタイミングやマインドも1年間やってきた選手同士で合わせられましたし、試合の流れの作り方を全員が共有していたのが良かったと思います」(実践学園高・岸誉道) 盤石の試合運びで、堂々のファイナル進出!第103回全国高校サッカー選手権東京都予選Bブロック準決勝が10日、味の素フィールド西が丘で行われ、実践学園高と夏の全国出場校の駒澤大高が対峙した一戦は、後半29分にCKからDF美濃島想太(3年)が先制点を叩き出した実践学園が、そのまま1-0で逃げ切りに成功。2年ぶりとなる決勝へ駒を進めている。 「ウチの選手も気持ちは入っていましたし、実践の子たちもちゃんとやり合う準備をしてきたと思うので、そこのぶつかり合いは何となく想定していた通りでした」と駒澤大高の亀田雄人監督が話したように、試合はお互いがやり合う形でスタートする。ファーストチャンスは駒澤大高。開始50秒。左サイド深くへ侵入し、MF小熊鉄平(3年)のパスを受けたFW片本流良(3年)は果敢にフィニッシュ。軌道はDFに当たってゴール右へ逸れたものの、いきなり先制への意欲を前面に滲ませる。 10分は実践学園にチャンス。キャプテンのDF岸誉道(3年)がシンプルなフィードを送り、FW本間貴悠(2年)が落としたボールにMF福田怜央(2年)が放ったシュートはDFのブロックに遭い、さらにMF岩崎蒼平(3年)のシュートは枠の右へ外れるも、こちらもアグレッシブな姿勢を打ち出してみせる。 チームを率いる内田尊久監督が「サイドのところをかなり警戒されていて、全然突破ができなかったですね」と振り返ったように、実践学園は右サイドハーフのMF山崎良輔(3年)がマンツーマン気味に警戒されたことで、なかなか基点を作り切れない時間が続いたが、それなら次に狙うのは中央からの崩し。23分。右サイドを山崎とのワンツーで崩したDF冨井俊翔(3年)が斜めのくさびを打ち込み、本間のシュートは駒澤大高DF嶋田結(3年)にブロックされたが、コンビネーションでチャンスを創出する。 30分は駒澤大高に決定機。FW岸本空(3年)が基点を作り、片本のクロスをMF西澤航星(2年)は左足で叩くも、軌道はわずかにクロスバーの上へ。34分は実践学園。ショートカウンターから運んだ本間は状況を見極め、40m近いミドルにトライ。前に出ていた駒澤大高GK丸林大慈(3年)も懸命に戻ってファインセーブで掻き出すも、見ごたえのある攻防。前半は0-0で40分間が終了する。 後半12分。駒澤大高は左サイドでFKを獲得する。10番を背負うFW内田龍伊(3年)が蹴り込んだ鋭いキックに、GKともつれながら岸本が頭でコースを変えたボールはゴールネットを揺らしたが、主審はオフェンスファウルでノーゴールとジャッジ。「アレが決まっていたら、もっと苦しい試合になっていたと思います」と内田監督も振り返った実践学園は命拾い。スコアは動かない。 ただ、後半は実践学園の攻めるターンが続く。「思ったよりも駒澤さんが中盤より前にはそこまでプレスに来なかったので、本間や代わった(片岡)郁翔にボールが収まっていたように見えましたし、そこでウチがやりたいことができましたね」(内田監督)。前線にボールを当て、そこに福田やMF吉浦晴(2年)も関わりながら、山崎と岩崎の両翼にも徐々に躍動感が。駒澤大高も嶋田、DF小池俊輔(3年)、DF斎藤俊輔(3年)で組んだ3バックを中心に堅い守備で対抗するものの、ドイスボランチのMF寺尾帆高(3年)とMF矢島礼偉(3年)も前に出ていく回数が限られ、良い形のアタックを繰り出せない。 29分に訪れたのは青の歓喜。冨井のオーバーラップから掴んだ右CK。DF峰尾燎太(3年)が正確な左足のキックを中央に届けると、競り勝った美濃島のヘディングはゴールネットへ吸い込まれる。「スケさん(鈴木佑輔コーチ)にも監督にも期待されていたのに、なかなか結果を出せなかったので、この大一番で決められて嬉しかったです」という185センチのセンターバックが大仕事。とうとう実践学園が1点のリードを奪う。 追い込まれた駒澤大高は攻める。35分。内田が右から蹴り入れたFKに、途中出場のFW富田澪(3年)が合わせたヘディングは実践学園GK樋口暖人(3年)が丁寧にキャッチ。40分。後半から投入されたU-16日本代表候補のFW岩井優太(2年)とのワンツーから、内田が左に流れながら放ったシュートは、ここも樋口がキャッチ。チャンスは迎えながらも、ゴールが遠い。 40+4分。駒澤大高のカウンター。左サイドを内田が執念で運び切り、ゴールライン際からマイナスに折り返すと、富田のシュートは枠を捉えるも、樋口が大事に、大事にキャッチ。そして、その樋口が大きくボールを蹴り出すと、タイムアップのホイッスルが西が丘の空に響き渡る。 「かなりタフなゲームだったので、どっちが勝ってもおかしくないということは見ている皆さんもご存じの通りだったと思うんですけど、自分たちの表現したいことはある程度表現できましたし、自分たちのスタイルを貫いて勝ちにこだわってゲームができたんじゃないかなと思います」(内田監督)。勝負強さを発揮した実践学園がウノゼロで勝利を収め、7年ぶりの全国出場へ王手を懸ける結果となった。 一昨年度の選手権予選準決勝でも西が丘のピッチを経験している実践学園だが、その試合に出場していたのは冨井だけ。スタンドには両校の大応援団が詰めかけ、味わったことのないような声援が飛び交うこの日の80分間が、彼らにとって未体験のゾーンだったことは間違いない。だが、試合前にキャプテンの岸はこんなことをチームメイトに話していたという。 「この舞台には、みんなの前で良いプレーをするために立つのではなくて、良い会場で試合をするために立つのでもなくて、とにかく目の前の細かい勝負に勝つ、目の前の試合に勝つということが何より大事だから、その部分をしっかり徹底して、周りの声をかき消すぐらいの気持ちで、目の前の勝負を全うしてほしいということを言いました」。 一方で内田監督はこの特別な試合に向けて、立ち上がりの戦い方にいつもとは違う“戦略”を立てていた。「選手は初めての西が丘ということもありますし、落ち着かないことはわかっていたので、今までは“10分”でやっていたことが多かったんですけど、今日は『まず“15分”はとにかくシンプルにやって、ゲームのリズムを作ってから、自分たちのペースでやろう』という話をしました。正直その15分でやられる可能性も十分にあったのですが、今までは入りのところでやられるシーンが結構あったので、同じ轍は踏まないぞというところで、普段よりちょっと長い時間ですけど、今日はそういう形でやりました」。 いつもより“5分”長いセミファイナル用の立ち上がりにも、『いつも通り』のマインドを携えた選手たちは順応し、まずはフルパワーでやり合ってから、以降は少しずつ、少しずつ、積み重ねてきたボールを繋ぐスタイルを打ち出していく。そして残り10分で先制してからは、コーナーでのボールキープも含めて時間の使い方も実に理想的。「ミーティングもして、やることを最後まで統一しようというところで、最後までうまく時間を使ってゲームを閉めた感じです。それも全部練習通りでした」と美濃島。目の前の必要なことを全員が全力でこなし切った先に、この日の勝利が待っていたのだ。 2017年度以来となる冬の全国へあと1勝と迫ったが、まだ何も成し遂げていないことはチーム全員で共有済み。決勝への意気込みを語った岸の言葉も印象深い。「西が丘という舞台で勝てたことは凄く良かったと思いますけど、今日と同じで行ったことのない舞台でもどれだけパフォーマンスを出せるかというのが大事だと思いますし、駒陸のピッチに立ったことのない人が多くても、いつも通りのプレーができれば勝てると思うので、もう1回気持ちを締め直して、良い準備ができればなと思います」。 1年間を掛けてみんなで共有してきたブレない『いつも通り』のマインドは、その立つピッチがどこであっても、戦うステージがどこであっても、揺らぐことはない。それは駒沢陸上競技場という最高のピッチでも、選手権予選のファイナルという最高のステージでも。実践学園は最後の1試合も堂々と、逞しく、みんなで積み上げてきたものを120パーセントの力で、貫き続ける。 (取材・文 土屋雅史)