なぜ「司法取引」制度の導入案が浮上してきたのか? /早稲田塾講師 坂東太郎のよくわかる時事用語
法制審議会(法務大臣の諮問=相談機関)の「新時代の刑事司法制度特別部会」に法務省が最終案を示しました。まだ部会の結論は出ておらず、その後の法改正が国会で認められない限り「案」の段階ですが、注目すべきは日本で認められていない司法取引の部分的な導入が明記された点でしょう。
取り調べ可視化の「デメリット」をカバー
この特別部会は大阪地検特捜部が証拠をでっち上げて起訴された村木厚子さん(無罪)の事件をきっかけに作られました。二度と冤罪(ぬれぎぬ)が起きないようにと取り調べの全面録画・録音(可視化)を取り入れるかどうかが最大の焦点でした。 可視化に否定的な声の代表が「容疑者と取調官の信頼関係が崩れて自白しなくなる」「共犯者について話さなくなる」など。司法取引はこうしたデメリットをカバーするアイデアとして主に捜査機関側が求めてきました。
贈収賄や薬物犯罪など対象事件を絞る
最終案によると司法取引ができるケースは次の2点 1)協議・合意制度 容疑者(起訴=裁判にかける前)や被告(起訴後)が他人の事件で捜査に協力した場合、起訴するかどうかの権限をほぼ独占する検察が見送ったり、求める刑を軽くするなどの計らいをします。被害者感情を考慮して殺人事件は除き、贈収賄(汚職)や談合および薬物や銃器に関わる犯罪に限りました。 贈収賄(わいろ罪)や公共事業を高値で落札するため業者同士が調整する談合は、互いに利益があり、かつ密室行われるため口を割りにくい傾向があります。例えば、わいろは贈る側も収める側も犯罪です。より悪質なのは収める側であり、仮に多方面から巨額の金銭を受け取っていたとしたら、司法取引制度があれば贈った側で比較的犯罪色が薄い者が「実は……」と名乗り出てくるかもしれません。薬物や銃器は、背景にあるより悪質な組織犯罪集団ではなく末端の売人などが摘発される場合も多く「巨悪」あぶり出しのためならば大目に見るという意図があるようです 2)刑事免責制度 自分も関わった他人の犯罪で「他人」の方が圧倒的に悪質だと捜査機関が考えていた場合、検察官が刑事責任を追及しないと約束し、代わりに「他人」が裁かれている裁判で犯罪を証言してもらう制度です なお自分の犯罪を証明する際に、自ら進んで重要な事実を明かしたら起訴後の求刑で刑を軽くする「刑の減軽制度」は見送られる方向です。