「追いかけて来ないように脚を撃って捨てる」愛されず〝使い捨て〟される猟犬たちの保護現場に密着した
殺処分されていた猟犬
”猟犬はハンターと一心同体”──。猟犬と飼い主が、固く特別な絆で結ばれているというイメージは、一般市民が勝手に作り上げた幻想なのかもしれない。 【猟犬の本能が…】すごい…散歩の途中で見つけた鳩が気になって仕方がないメラ 「病気になったから」、「年老いて猟欲が落ちたから」、「猟期が終わって、次の猟期まで飼うのは大変だから」という理由で猟犬が遺棄され、あろうことか、猟犬が追いかけて来られないように、猟銃で脚を撃った上で捨て去るケースまであるという。にわかには信じられない、あまりにも惨い話だ。 「知り合いの猟師さんが飼っていたポインターがいなくなってしまって、それを探してほしいと言われて。県の愛護センターの収容情報を見たら、ポインターがいたんです。結局、その方のポインターではなかったのですが、助けに行きました。愛護センターに行ったら、ポインターやセッターなどの純血種たちが他にもたくさんいて、ビックリしました。鳥猟犬なのは明らかです。当時、使役犬は譲渡の対象にならないため、それらは殺処分が決まっていた犬たちでした。そんな現実を知ったんです」 そう語るのは、千葉県市川市の『GUNDOG RESCUE CACI(以下、CACI)』の代表・金子理絵さんだ。そもそも金子さんは、’90年代から千葉県市川市の三番瀬という地域であった“多頭飼育崩壊”事案で犬の保護活動をしていた。だが鳥猟犬の遺棄について知り、愛護センターから譲渡もされず殺処分になっていく状況に、「助けてもらえるチャンスの少ない犬を率先して保護しよう!」、「鳥猟犬を使い捨てにさせない!」と、決意。’08年からは、その保護・譲渡に特化した活動をしている。団体名にある“GUNDOG”とは鳥猟犬の別名だ。 「見に行った愛護センターでは、同じ部屋に小型犬とポインターがいました。小型犬が動くとそのポインターが狙いを定めるのを見て、すぐに小型犬を出してもらいました。期限の7日を待って、飼い主が現れなければ、そのポインターもその子も引き取るから、って。“愛護”といっても、助けるためではなく、処分するための施設だったので、収容された初日には、小型犬や子犬も含めてみんな同じ部屋に入れられていて。小型犬がチョロチョロっと動くのに反応して、噛み付いたりして危険だと、判断したんです」 ◆要らなくなった猟犬に毒薬を混ぜた餌を… 今では過疎化が進む地域もあるという千葉県だが、当時は犬を飼う家庭も多かった。鳥猟犬に限らず、保護され殺処分になる犬の頭数はワースト1。数があまりにも多く、細かい対応など困難だっただろう。金子さんが調べてみると、’90年代から、鳥猟犬の保護数も全国的に見ても千葉県が突出して多かったという。そこにはどんな理由があるのだろうか。 「千葉はあまり山が高くなく、平坦な土地も多い。猟場として豊かな土地で、鳥猟が盛んです。都内からのアクセスも良くて、ハンターが多いという理由があると思います」 鳥猟犬たちは、どこからどのようにして保護センターに来るのだろうか。 「遺棄された鳥猟犬は、山ではない河川敷や海べりや、野原などに多いようです。犬のほうからは寄って来ないので、愛護センターの職員さんは『猟犬は捕まえられない』って言います。飼い主ではないと逃げて行ってしまうからです。弱ってきて民家近くに来たときに初めて捕まえられるそうです」 見つけられたり、保護された鳥猟犬の中にも、狩りの際に逃げ出したり、はぐれたりした犬もいるだろう。CACIのメンバーが、はぐれてしまった鳥猟犬を見つけ、飼い主に連絡をして……ということもあったそうだ。ただ、その飼い主はいなくなってしまった犬をSNSで懸命に探していたからこそ、連れ戻すことができたのだ。 「鳥猟犬の保護に携わるようになって、あちこち歩き回って聞き取り調査をすると、要らなくなった猟犬に毒薬を混ぜた餌を食べさせて、山に捨ててくるという話も聞きます。 今では法令に違反しますが、内々で個人繁殖させた猟犬の売り買いもされていたようです。そこで買い手がつかないと……。そんな話も聞きました。ハンターさんに話を聞いても、知り合いに頼まれて譲り受けて飼っているという猟犬もいて。余った犬を押しつけられるように引き取った状況で愛もなく、その結果、遺棄という流れもあるのだと思いますね」 それはもう単なる“モノ”という扱いだ。 「猟犬への愛がないハンターがいるんです。確かに猟犬はペットではないかもしれません。話を聞くと、驚くことに、家族もその犬の名前すら知らず、家庭の中では単なる“お父さんの趣味のための犬”という存在だったりします」 鳥猟犬を遺棄するのは一部のハンターなのかもしれないが、ハンターとしての当たり前のモラルの欠如に他ならないだろう。 「ハンターさんたちの意識を変えないと、この問題は解決できないと思うんです。ある猟友会で鳥猟犬の問題を説明したところ、理解や賛同を頂き、団体内でも啓蒙活動に努めてくださっています。それは大きな一歩だと思います」 ◆リトレーニングの現場に密着した 保護センターからシェルターに来ても、病気やケガがないか診療を受けさせたり、その先の譲渡に繋がるまで、リトレーニングしなければならない。単なるペットではない鳥猟犬は、そうしなければ、家で飼うにはあまりにも難しすぎるからだ。CACIのシェルターにいる犬には、金子さんやボランティアスタッフらにより、それぞれに対応した餌やケアが与えられている。また、朝夕と1頭1頭散歩にも出る。散歩は大変な作業だった。 実際に散歩風景を取材したセッターのメラは茨城県動物指導センターで今年6月に保護・収容された。取材時には、メラはまだシェルターに来て1週間と少し経った頃だった。安全を考慮し2本のリードで散歩に出ていたが、金子さんをグイグイと引っ張りながら先に先にと前を歩く。金子さんが声をかけても、メラは毎回振り向くわけではない。元来、ハンターと1対1の関係を築いていた鳥猟犬と新たに信頼関係を築くのは時間のかかる根気のいる作業だという。 「呼びかけて、たまに振り向いてくれた瞬間を逃さずに褒めてやったりと、その一瞬一瞬を逃さないように見てなくちゃいけないんです」 公園での散歩中、ハトが5~6羽集まっているところを見つけ、姿勢を低く一斉にジリジリと近寄っていくシェルターの犬たち。その姿はまさに鳥猟犬そのものだった。 「ハトを見ると、もうそっちに釘付けです。他の犬とかではなく、まず鳥に執着するんです。専門家に聞くと、ハトを追うのも悪いことではないそうです。獲物を狙う際には、口を開けずに胸で呼吸をするため、通常の散歩では使わない胸の筋肉も使うんです。 本来は、野山に放して運動させる犬種なので、鳥猟犬には1~2時間の単なる普通の散歩では足りない。走ったり、胸を使った呼吸だとかが必要。運動だけだと、人とのコミュニケーションが取りにくくなってしまうので頭を使わせてやることも必要です。まずは運動欲求を満たしてやり、加えて余計な刺激のない室内でトレーニングも並行してやらないと、言うことを聞かないままです」 ◆捨てられる鳥猟犬が多すぎる また、リトレーニングといっても、本来持っている性格を無理やりに取り除こうとするのもストレスになってしまう。やはり愛玩犬ではないことを受け容れなくてはならない。 「鳥猟犬はどうしても瞬間的に動きます。その犬を理解して、こちらがその行動を先回りをして対応しなければならない。譲渡して飼ってもらう方にも、その必要があるのです」 取材時、CACIのシェルターではセッター4頭と雑種2頭を保護していた。その前までシェルターとして使っていた別の施設では、アパートの1、2階を使い、最大23頭を収容していた時期もあった。現在のシェルターになってからも、瞬間的に最大20頭を保護し、それが全て鳥猟犬だったこともあったという。東日本大震災時に施設が被災して資料の多くを失ってしまったためにはっきりしないが、約20年の間に鳥猟犬約600頭を保護したそうだ。 「その中には残念ながら譲渡することができないまま最期を看取った犬もいました。最近ウチで保護するのは年間20数頭ですが、ここまで減ったのは、すごいこと」とも語る。最近では、熊本県や岡山県などで、鳥猟ではなく獣猟に使われる犬の遺棄も増えているという。 「必要なのは、飼い主に猟犬を捨てさせないための法律の整備です。これが一番大事。どうにかそれを叶えるため、現在動いています」 着実に成果を上げている金子さんの活動だが、まだまだ先は長い──。
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