災害を「検証」するとはどういうことか──日本災害情報学会などが東京大でシンポジウム
大きな自然災害が発生すると、国や自治体などの災害対応が妥当だったかどうかを検証するケースが一般的になってきた。しかし、災害における検証のあり方に決まった方法はなく、行政、報道機関、研究者、市民などそれぞれの立場で検証という言葉に対するイメージも異なる。このような認識の違いが、時に検証結果を巡る争いなどを招く原因にもなっている。専門家たちは、自然災害を検証するということについてどのように考えているのか。東京大学で26日に開かれたシンポジウム「災害における『検証』とは何か?」(主催:日本災害情報学会・日本災害復興学会)を取材した。 ニュースワード「大川小の津波被害」
後を絶たない災害発生時の対応をめぐる訴訟
検証という言葉を辞書で引くと、(1)真偽を確かめること。事実を確認・証明すること。(2)裁判官などが推理・推測などによらず、直接にものの形状、現場の状況などを調べて証拠資料を得ること。(大辞林)──などとある。 実際に大きな災害の発生後、行政や企業などの対応を巡って訴訟になるケースは、東日本大震災の津波災害に絡んで訴訟となった宮城県石巻市立大川小学校、七十七銀行女川支店などのほか、犠牲者の遺族と負傷者が国と県を相手取り損害賠償を求めている御嶽山の噴火災害など枚挙にいとまがない。今年7月の平成30年7月豪雨でも訴訟の動きがあるとの報道もあり、災害時に何があったのかを検証する一つの方法となっているといえそうだ。
訴訟では十分な事実解明や原因調査は期待できない
しかし、シンポジウムの講演者の一人で、津波被害の法的責任についても研究する東京大学大学院法学政治学研究科の米村滋人教授(民法・医事法)は「訴訟によって十分な事実解明や原因調査は期待できない」という。循環器内科医でもある米村教授は、医療訴訟を例にとり「民事訴訟は事実解明の場としては不適切で、すべての事実が明らかになることはない。特定個人の法的責任を追及することで、組織全体のシステム上の不備などが見過ごされやすい」と説明。 災害についても、事前の防災対応を問題視した大川小学校の控訴審判決という例外はあるが、「事後対応が問題とされやすく、防災に関する教訓は引き出しにくい。訴訟によって十分な事実解明や原因調査は期待できない」と述べた。