災害を「検証」するとはどういうことか──日本災害情報学会などが東京大でシンポジウム
専門性を備えた第三者機関が検証を
航空、鉄道事故などを調査する運輸安全委員会、製品や施設などの事故を調査する消費者安全調査委員会、医療事故を調査する医療事故調査・支援センターなど、公的な事故調査組織はいくつかあるが、災害に対するものは臨時で設置されるもののほかはない。 米村教授は、「医療事故などでは、将来の事故予防のためには法的責任の追及よりも事故調査に重点を置くべきだとする議論が多く、中立的な第三者が事故原因を調査し、一般的な発生要因を特定して対策を講じることで、事故予防が実現できるとされている。災害についても同様で、専門性を備えた外部の第三者機関による検証が望ましい」と提案し、「半ば当事者であり、客観的、中立的な調査を行うことができない行政が調査の主体になることは好ましくない」と話した。
ニュージーランドでは被災者の救済システムを重要視
また、ニュージーランド(NZ)国籍のヤスミン・バタチェリヤ芝浦工業大学総合研究所助教(都市計画)は、災害にも適用されるNZの事故補償制度「ノーフォルト事故補償法」を紹介。 NZ内で起きた自動車事故や労災事故など、事故の態様にかかわらずすべての被害者に対して寄付を行う制度で、「被災者本位の迅速な救済システムをつくることが目的で、検証が別建てで行われることにより、被害者のリハビリなどの妨げにならないようにしている」という。ただ、災害時の肉体的な傷を伴わない精神的な傷などが対象外になっていることなどが課題として残っているという。
自然災害を検証するのは何のためか
自然災害を検証するのは何のためなのか。数々の事故調査に携わってきた関西大学副学長の安部誠治教授(公益事業論)は、世界初のジェット旅客機である英国コメット機の空中分解事故の調査で得た金属疲労が原因であるとの知見が、航空機の安全性向上に大きく寄与した例を紹介し、「事故の調査にはこうした意味がある」と説明した。 自然災害を検証するのも、遺族・被害者などの「真実を知りたい」という気持ちに応えるとともに、同じような悲劇を繰り返さないためという目的が大きいはずだ。また、検証に時間がかかるために、被災者支援が滞るようなことがあってはならない。災害の検証のあり方はまだまだ議論される必要がありそうだ。 飯田和樹・ライター/ジャーナリスト(自然災害・防災)