ダンロップの「シンクロウェザー」は、オールシーズンの概念を超えた「いつでもどこへでも行ける新世代タイヤ」
住友ゴム工業が10月に発売する次世代オールシーズンタイヤ「ダンロップ・シンクロウェザー」は、路面状態に合わせてタイヤ自らが適した性能に変化する「アクティブトレッド技術」を採用した大注目のタイヤだ。雪と氷での性能は確認した。今度はドライとウェットだ。 TEXT:瀬在仁志(SEZAI Hitoshi)PHOTO:住友ゴム/Motor-Fan 雪上・氷上での性能はほぼスタッドレス並み 路面状態に応じてゴム自ら分子レベルで構造を切り替えることで、グリップ特性を変化させる『アクティブトレッド技術』を初めて採用したダンロップの新世代オールシーズンタイヤ『シンクロウェザー』の冬性能は確認できた。 シンクロウェザーは、氷上路面で最新のダンロップ・ウインターMAXX02にはわずかに及ばないものの、グリップ限界領域での奥行き感があって、扱いやすさが持ち味と書いた。公式データにおいても氷上のブレーキ制動指数がシンクロウェザーの100に対して、スタッドレスのウインターMAXXは98(制動距離が短い)という結果で、その差2ポイントとわずか。試乗フィーリングとほぼ一致している。雪上性能においては横方向の剛性感が高いことから、安定感があるし駆動力も落ち着いていて、スタッドレスよりもむしろ好感がもてた。 シンクロウェザーは、冬季タイヤ規制時も走行可能なスノーフレークマークや国際的な氷上テストに合格したアイスグリップシンボルマークが日本で初めて刻印される。ドライ性能の指針となる、最高速度を示すスピードレンジはスタッドレスタイヤの160km/hのQ規格に対して、シンクロウェザーは210km/hのH規格と一部サイズでは240km/hのV規格に対応する。 長期に渡って氷の性能が要求される寒冷地では、スタッドレスタイヤが必然だと思うが、氷環境が短期で積雪やドライ路面が中心の準降雪地帯や都市部の日常利用においては、雪やドライ性能もしっかりと担保されたシンクロウェザーの魅力は大きい。何より季節ごとに夏タイヤと冬タイヤを交換する手間もなく、保管などの煩わしさから解放されるのはいい。 もっともアイス性能同様に、ドライ性能もサマータイヤ同様であれば、だ。 シンクロウェザーvsサマータイヤvsスタッドレス 今回はその確認のため、冬の旭川テストコースから、初夏の岡山テストコースへと場所を移した。遮るものがないテストコースは照りつける太陽によって、路面温度も高く、サイプを多く彫り込んだ『シンクロウェザー』に取っては厳しい環境だ。 試乗車は冬期テスト同様にカローラツーリング。サイズは195/65R15。バンクを持たない岡山テストコースは80km/h前後で水平高速旋回ができるふたつのコーナーと2本の直線路が結ばれ、直線路の一部は右に折れるという、変形のオーバルレイアウトを持つ。一般路をイメージした2車線のコースは決して広いとは言えないうえ、速度レンジは高速道路並み。タイヤの印象は緊張感として伝わってくる。 そんななか、ダンロップの主力サマータイヤ、ル・マンV+と、冬期同様に最新のスタッドレスタイヤ、ウインターMAXX02と比較試乗した。 高速旋回では、ル・マンV+が当然のように操舵応答性、リヤの追従性ともに高く、ピタリと姿勢が収まる。スタッドレスは切り始めが頼りない。接地感はあるものの遅れて動き始める感じで、ゴムの柔らかさが頼りない。リヤもゆっくりと滑り出すような印象で、摩耗も激しそう。決して破綻は来さないが、頑張って曲がっていく気にはならない。 対してオールシーズンのシンクロウェザーは、ル・マンV+同様の手応えがあって、リヤの追従性は夏タイヤと遜色ないレベル。スタッドレスタイヤのような細かな溝が入っているイメージはない。ただ、姿勢が落ち着いてからの操作に対しての応答は鈍め。高速レーンチェンジなどでも動きも緩やかで、タイヤの骨組みは強さよりもしなやかさにポイントを置いている感じだ。 何周もラップしてゴム自体に負担を掛けてみてもスタッドレスのような揺れが出てくるようなことはなく、落ち着いていた。分子自体が温度や水に反応しアイス路面やウェット路面に対応するといった変化はなく、グリップ感は夏タイヤそのままだ。 ゴムが変化した効果はウエット路面にあったように思う。ここでも同様に3モデルを乗り比べたが、夏タイヤはしっかり感はあるもののゴムの粘り感は強調されず、他の一般タイヤ同様手応えがやや軽めとなって、舵角も切り増す必要があった。スタッドレスタイヤはブロックが倒れ込んでしまっているのか水に乗ってしまっているのか、同じ速度をキープしようとすると舵角はどんどん深くなっていく。切り始めから、限界付近まで早め早めの操作が必要だった。 対してシンクロウェザーはウェット路に入っても手応え感が大きく低下することなく落ち着いている。旋回初期はやや鈍い動きも姿勢が決ると水を外に積極的に排出しているのかGは一定だし、舵角も落ち着いている。Vパターンの効果が支配的だと思うが、手応えに関しては水に反応したゴムが粘りを生んでくれたのかもしれない。正直、目に見えないので確かではないが、手応えに関してはそんな期待感が生まれた。 乗り心地面においては、路面に可能な限りフラットに接地させようとしているのか、トレッド面の固さが気になった。小さな突起でバタンと広めの入力感があって、重さも感じられた。構造の基本はしなやかであっても、路面と接する基本部分は重厚な感じで、よく言えばしっかり感があり、悪く言えばちょっと重量級タイヤのよう。 レクサスNXに履いて公道で試す このあたり、レクサスNXで一般路に出てみると、時たま顔を覗かせる。良路においては音の変化は少なく、音圧も低い。荒れた路面に行くと接地面が受けた際の入力が元となる音の変化があって、固さを感じる。ステアフィールもセンター付近がやや甘めで、荷重がかかってくると素直に動き出し、しっとりとしてくる。 ドライ性能は悪くない。スタッドレスタイヤ同様のサイプが刻まれているタイヤとは思えない剛性感もある。ウェット路面でも排水性は良く、ゴムの密着度のような期待感は確かに確認できた。サイズによってはル・マンV+同様にタイヤ内部が発生する共鳴音を吸収するスポンジが採用されているかのような静かなタイヤサイズもあった。 ただ、アイス路面で受けた感動があったかと言えばNoだ。やはり速度レンジと、負荷が高くなるドライ路面ではそれに耐えうるための強さが要求され、スッキリ感がやや薄い。ル・マンV+やウインターMAXX02のように用途が夏か冬かで限定されているタイヤと、夏のテストコースという厳しい環境下で比べるのは酷だが、まだまだ進化の余地はありそう。 コンフォート系のクルマだと少々粗さが見えてしまいそうだから、輸入車のような骨格のしっかりしたクルマなら、シンクロウェザーの作りの良さが最大限発揮されるはず。冬を前にタイヤ交換をせず、高速を飛ばしてウインタースポーツを楽しむ、あるいは急な雪や氷に悩まされることがある都市部のプレミアムユーザーの安心できる足元として選ぶにはちょうどいい。 オールシーズンの概念を超えて、いつでもどこへでも行ける新世代タイヤとして、どれだけ多くのユーザーに認知されていくか、これからが大いに楽しみだ。
瀨在 仁志