「弱者の兵法」で国立大の和歌山大が神宮初出場初勝利!
全日本大学野球選手権の第3日が7日、神宮球場、東京ドームで行われ、2回戦では初出場となった国立大の和歌山大が、今秋のドラフト候補投手を擁する岡山商科大を4-1で破って初勝利を奪った。練習は、週に2度。グラウンドもアメフト部と共有という悪条件を乗り越え、10年前に監督就任した大原弘監督の元「弱者が強者を打ち破る兵法」を貫いてベスト8進出を決めた。国立大としての勝利は、2010年の北海道大以来、7年ぶり。今日8日は、国立大として61年ぶりのベスト4をかけて優勝候補の上武大と対戦する。 岡商大の先発マウンドに立ったのは最速152キロの近藤弘樹ではなく蔵本治孝だった。実は、彼もまた複数球団のドラフトリストに載っている好投手だが、岡商大と近大の一回戦を視察した大原監督は「近藤は146球も投げた。先発は蔵本」と読み、その時、ブルペンで投げている蔵本を細かくチェックしていた。 「ブルペンでもボールが荒れるんです。じゃあボールを見て粘れる選手がいいだろう」とリーグ戦では9番を打つ田淵公一郎を1番に抜擢した。 采配はズバリ。田淵が、立ち上がりに四球を選ぶと、すぐさま「ノーサインで」盗塁を決めた。続く大畑達矢の内野ゴロで三進するとキャプテン真鍋雄己の三塁ゴロでホームを突きノーヒットで先制点を奪う。 田淵と真鍋が目と目で語って決めた「ゴロゴー」。これこそ和歌山大野球だった。 「こちらがやりたい野球をできた」(大原監督)。 3回にも先頭の田頭優人が四球を選ぶと、またノーサインで盗塁。相手の守備にエラーが出ると、そこに3連打を浴びせて3得点。早々とドラフト1位候補の近藤を引きずりだした。 「近藤が来るまでに4点を取れたのが大きかった」。大原監督の思惑通りにゲームが進む。 近藤には徹底してバントで攻め、ゆさぶりをかけた。近藤からは追加点を奪えなかったが、先発の貴志弘顕の奮闘と、堅実な守備陣が岡商大の反撃を食い止める。貴志のストレートは最速が120キロ台。カット、ツーシームと、ほとんどが変化球で、のらりくらりのピッチングである。 岡商大のベンチからは、「相手はバッピー(バッティングピッチャー)だ。打てるよ、打てる」と辛辣な声が飛んだ。日頃、ドラフト候補の150キロ級のストレートを見ている彼らからすれば、まさにバッティングピッチャー級のレベルだったのかもしれないが、キャッチャーの真鍋は、「その声は聞こえていました。そういう気で振ってくれると、逆に楽なんです」と、考えていた。 毎回走者を出して、3回から7回まで毎回得点圏に進まれるが、失ったのはたったの1点。粘り強くピンチを踏ん張り続けて、8回、9回は、続けて三者凡退。打てそうで打てないイライラが岡商打線を狂わせた。「ボールを低めに集めて芯を外すのが持ち味。最後は腕を振っていくことを考えました」 貴志は、10安打を打たれながらも1失点の123球完投でドラフト候補に結果的に投げ勝ったのである。