【漫画家に聞く】整形した女性、大嫌いだった“生まれつきの美人”に共感した理由は? ルッキズムを相対化するSNS漫画がバズ
近年、SNSで美容整形についての話題がバズる機会が増えた。それは時として炎上を伴う。朝比奈ショウさん(@shoasahina___)の描いた漫画『「かわいい」は、ときどき苦しい。』は、整形した美人と天然の美人という、対照的なふたりがシンパシーを感じて打ち解ける物語だ。 整形した女性、大嫌いだった“生まれつきの美人”に共感した理由はーー漫画『「かわいい」は、ときどき苦しい。』 Xで集まったいいねの数は6.1万。本作が多くの読者に刺さったのはなぜだろう。その理由について作者へのインタビューで迫っていきたい。(小池直也) ――反響などはいかがですか? 朝比奈ショウ:(以下、朝比奈):夏にも一度ポストしているのですが、その時はいいねが1000ほどで。その時は「世間的に今いちだったのかな」という感触だったのですが、後で私のアカウントがセンシティブ設定でシャドウバンされていたことがわかったんです。それを解除して再掲したら、予想を超えた反響があって驚きました。 ――本作の着想や制作のきっかけについて教えてください。 朝比奈:Xにいる女性って色々な方がいると思うのですが、私のおすすめタイムラインに整形をしている方や、美しくなるための費用をパパ活や風俗で稼ぐ方のバズった投稿が流れてきます。そのような美醜に関するコンテンツは誰もが関心を持たざるを得ないと思うので、同じ気持ちがわかる女性と取り上げてみようと思ったんです。 ――整形した美人と、元々の美人だけど好きなファッションに葛藤のある美人を対比的に描いたのはなぜ? 朝比奈:SNSを見ていると整形した人と、生まれた時から美を持っている人は相容れない部分があると感じるんですよ。美人同士が殴り合っているイメージで(笑)。もちろん自分も含めて色々な感情はあるのですが、まずは傷つけ合うのを止めて、別の部分で深めないと世界はよくなりません。 その溝が何かのきっかけで埋まる関係性を描いたら、ルッキズムで混沌としている世の中に友好的なものをもたらせるかもしれない。そんな希望的観測がきっかけで対極の登場人物ふたりを出しました。 ――冒頭のモノローグも印象的でした。 朝比奈:整形に至る精神力って凄まじいと考えていて。自分自身もルックスに悩みがないわけではないですし、クリニックを探した時期もあったり。でも結局は値段やダウンタイム、周りの視点などが気になって決断できなかったんです。 それを踏み越えられるのは相当な精神であり意志。姫咲さんもあれくらいのマインドでないと、どこかで心が折れてしまうんじゃないかなと思うんですね。 ――整形と「好きなファッションをする」というトピックはルッキズムのなかでも別の問題系な気がします。それを繋げた点については? 朝比奈:「今の自分とは違う自分になりたい」という気持ちで動く、という意味では個人的に同じジャンルなのではないかなと。それで相容れない両者が互いの苦しみが同じだと理解して絆を育む、というのは自然な流れだと思っています。 ――姫咲さんが天王寺さんのメイクをするシーンもハイライトでした。メイク後の天王寺さんの変身の感じを作画で表す際に心がけたことは? 朝比奈:メイクって元が美人だろうと、そうでなかろうと数段にきれいになる魔法のようなものなんです。それが華やかさが伝わるように細かめの修正を入れたり、トーンを貼ったりとこだわりました。 ――プロフィールには「『強い女』が好き」とありますが、朝比奈さんにとっての「強さ」とは? 朝比奈:以前連載していた『強ガール』も「『強い』とは?」ということはテーマにしていたんです。打ち砕かれてボロボロになっても、最後には立ち上がって自分の人生を切り開ける力がある人。これが強い人なのかなと。私の作品はすべてにそういった女性が登場します。 世間の“当たり前”を崩したくて、自分が女性を描いているのかもしれません。漫画の一般的なイメージだと女性は守られる立場じゃないですか。力はないけど精神力や人生を切り開く力に男性が感動してもいいはずなので。 ――最後に作家としての展望を教えてください」 朝比奈:私の作品を読んで何か「別の視点」を感じ取ってくれれば嬉しいですね。少しでも明日を生きやすくなったり、「死にたい」みたいな気持ちになる人が減ってくれたら。そういう漫画を機会がある限り描き続けたいです。
小池直也