裁判官「不正は自分のため」、友人「弁護士より収入少なく見返したかったのでは」…インサイダー告発
金融庁、東京証券取引所という市場の「監視役」に属する職員や社員が、自己や親族の利益を得るために不正取引に及んでいた疑いが強まり、証券取引等監視委員会から23日に告発された。いずれも企業情報が集まる立場を使い、株価上昇が見込める株式公開買い付け(TOB)に狙いを定めていたとされる。「あまりにも職業倫理に欠けている」。投資家らは怒り、再発防止の徹底を求めた。(落合宏美、林麟太郎) 【図解】父親にTOB情報を伝えた東証社員…疑惑の構図
告発された金融庁出向中の裁判官、佐藤壮一郎容疑者(32)(懲戒免職)は今年4~9月、TOB情報10件を基に対象企業の株を総額1000万円近く買い付けた疑いがもたれている。
複数の知人によると、佐藤容疑者は慶応大法学部で優秀な成績を収め、飛び級で同大法科大学院に入学。2017年に24歳で司法試験に合格した。高校、大学時代の友人男性は「真面目で優秀。大学時代は検察官を志し、正義感が強い印象があった」と振り返る。
19年に大阪地裁判事補に任官し、主に民事裁判を担当。C型肝炎やアスベストを巡る国家賠償請求訴訟など著名な裁判に携わり、強盗致死事件など刑事裁判にも関わった。あるベテラン裁判官は「中央省庁に出向した経歴からも、裁判官の仕事には問題はなかったのではないか」と話す。
関係者によると、佐藤容疑者は出向前から有名企業を中心に株取引を行っていたが、出向後、職務で知った未公表のTOB情報をもとに売買し、徐々に取引の金額を増やすように。法科大学院でともに学んだ友人の弁護士は「負けず嫌いだった。裁判官は弁護士より収入が少なく、見返したいとの思いがあったのでは……」との見方を語った。
弁護士は、大手事務所所属であれば佐藤容疑者の年代でも年収1000万円を超えるケースがある。一方、裁判官は法律で報酬が規定され、佐藤容疑者のような任官5年程度は年収約700万円とされる。佐藤容疑者は、監視委や東京地検特捜部の任意の事情聴取に「自分の利益を得るためにインサイダー取引を行った」と不正を認めたという。