〈シリーズ累計売上20億枚〉特別なケアを毎日のケアに…「ルルルン」のフェイスマスクがシェア1位を取り続ける理由
新興ブランドの拡大で2020年からシェアが落ち始めた
2011年から順調に成長し続けた同社だったが、2020年に初めてブレーキがかかった。 好調なフェイスマスク市場にさまざまなブランドが参入し、特定の成分を打ち出した商品が多くなり始めシェアを奪っていった。毛穴に特化した商品、レチノールといった先端の成分を全面に押し出す商品、そして韓国コスメコスメブームが到来し、CICA成分が含まれるパックが注目されるように。 同社のシェアも売り上げもみるみるうちに落ちていった。 「それまではPRに力を入れなくても商品は売れていたんです。だから自分たちの商品は浸透していると思っていたのですが、実はそうではなかった」 2021年、2022年になってもシェアは落ちるばかり。社内では他社のようにCICA成分を入れたフェイスパックを導入するという議題は何度も上がった。 「でも成分を打ち出した商品は、私たちがもともとコンセプトにしてきた商品ではありません。ルルルンの強みは保湿することで肌の水分と皮脂のバランスを整えて、肌の悩みで一番よく挙げられる乾燥対策に適しているところです。その強みを捨てて、CICA成分を打ち出した商品を出すのは違うという結論に達しました。ただ会議は本当に紛糾しました。 シェアは落ちているし、競合はどんどん出てくるし、CICA成分などさまざまな成分が注目されていたので。でも毎日のケアとして肌を保湿するパックという軸をなくしてしまったら、私たちの商品のアイデンティが失われてしまう……と考え、成分を打ち出した商品は作らないことにしました」
商品の特性が世の中に浸透していないことに気づいた
そうは決めたものの、じりじりとシェアが下がっていくのをただ見過ごすことはできない。広告、宣伝の打ち手を考えていく中で、ルルルンが化粧水のように毎日使えて、肌の水分補給する保湿のフェイスパックであることが、まだまだ世の中に浸透していなかったことに気がついた。 「社内では、毎日使えるパックということで世の中に認知されているという誤解がありました。さらに『パックは毎日使いすると肌に悪い』とSNSで広まっていたこともありました。確かに特別な成分を浸したパックは週1回くらいの使用がおすすめかもしれませんが、ルルルンのシートマスクはシンプルに保湿が目的なので、毎日使っても問題ないはずです。ですが他のパックと混同され、毎日使ってはいけないと思われていました。ルルルンの商品特性がいかに伝わっていないかが、よくわかったんです」 そこで、毎日使いができる保湿タイプであること、フェイスパックなので効率的に保湿できることをちゃんと伝えていこうと、キャラバンに力を入れることに。それまでもキャラバンはやっていても年に5件くらいほどだったが、2023年は約3000人以上に直接説明し、もう一度商品のポイントをしっかり伝えることから始めた。 広告出稿、美容系のインフルエンサーを使った宣伝にもさらに力を入れた。 「単に美容家の人に商品を使ってもらって宣伝してもらうだけでなく、商品を説明させていただいたり、ご意見をいただける時間を作ってもらったり、地道に商品を知ってもらう戦略を取りました」 その上で、シートの改良、BOXタイプの高さを従来品に比べて低くし、最後の1枚まで取り出しやすいコンパクト設計にする、肌に密着する新シートの採用など商品改良も怠らなかった。 その結果、2022年末からだんだんと業績は回復し、2023年には完全にアップトレンドになり、売り上げは180億円(市場価格)に到達、市場シェアは28%まで高まった。 「まだまだ、毎日使うものと認識されていないので、今後も商品のPRは継続してやっていきます。フェイスマスクのシェアがナンバーワンブランドだからこそ、フェイスマスクの有用性をアピールしていき、お客さまに目的に合わせて選んでもらいたいと思っています」 何かとタイパに価値を求められている現代。忙しい日々の中、手軽に保湿できるフェイスマスクは今後ますます需要が伸びていくだろう。 取材・文/百田なつき
百田なつき