「思わず手に汗握る…!」スポーツ漫画のアツすぎた「主人公不在の名勝負」
■覚醒シーンに思わずゾクッ!『はじめの一歩』ブライアン・ホークvs鷹村守
コミックスは140巻を超え、35年以上の連載期間を誇る『はじめの一歩』。いじめられっ子の幕之内一歩がボクシングに出会い、大きく成長していくストーリーが魅力の作品だ。一歩のジム仲間やライバルたちにも個性的な人物が多いのも見逃せない。 そんな本作の長い歴史の中でもベストバウトとして挙げられることが多いのが、WBC世界J・ミドル級タイトルマッチのブライアン・ホークvs鷹村守だ。 ホークは試合前から挑発を繰り返し、日本国民を侮辱する発言をする完全なるヒールとして脳裏に刻まれる強烈なキャラである。試合が始まると鷹村はハイレベルのボクシングを見せ、ホークを圧倒する。しかし、ホークも変則的なボクシングを見せ、徐々に戦いは両者譲らぬものになっていく。 会場のボルテージも最高潮になる中、鷹村の減量苦が試合に影響し始める。彼はついにスタミナ切れを起こし、ホークの一方的な展開が続いてしまうのだった。そして、ついに意識も途切れ、誰もがその敗北を予感した時に鷹村が突如ブチギレる。この瞬間は、これまでの鬱憤が全て解放されるような瞬間だった。 鷹村の豹変にホークは対応しきれず、「確実に殺しにきてる‼」と恐怖を感じてすらいた。そして、意識を取り戻した鷹村は「暴力」と「ボクシング」を融合させたボクサー像を体現し、見事に勝利を収める。 作中屈指の人気を誇る鷹村が世界チャンピオンになるこの展開には、思わずぐっときてしまう。発展途上の一歩と比べて、完成度の高いボクシングを見せる鷹村の試合はいずれも人気だが、この試合は鷹村が敗北寸前にまで追い込まれる点も見逃せない。減量のつらさ、最高レベルのボクシング、逆転に次ぐ逆転というこの展開には、作品の面白さが詰まっていて興奮度MAXだった。 スポーツ漫画の歴史に残る一戦は、必ずしも主人公がかかわる試合というわけではない。「天才vs天才」や「最強vs最強」というべき構図の名勝負には、読者が手に汗握るのはもちろん、主人公も大いに刺激を受けたはずだ。 主人公に匹敵するほどの存在感を誇るキャラクター同士の一戦にアツくなるのも、人気スポーツ漫画の楽しみ方の一つだろう。
スパロウ