相次ぐ高齢者事故 免許更新前講習でも見える危険の芽 それでも車は「生活のため」手放せない 公共の足脆弱な地方の事情
鹿児島県内で、65歳以上の高齢運転者が関わる交通事故が後を絶たない。11日には、鹿児島市下荒田1丁目の県道で、84歳の女性が運転する乗用車が歩道に突っ込むなどし、歩行者4人が死傷した。この事故を機に、免許を更新しないと決める高齢者がいる一方、運転に必要な運動能力や判断力の低下がみられても、日常生活を送るには車を手放せない実情もうかがえる。 【写真】県内高齢者運転免許返納者数
20日午後、鹿屋市の鹿屋寿自動車学校。75歳以上の男女10人が、運転免許更新前に課される認知機能検査と高齢者講習に臨んだ。 「危ないですよ!」。教習所内のコースを走る「実車指導」では、受講者がサイドミラーを凝視するあまり、前方から数秒間目をそらしたり、停止線を1メートル以上過ぎたりし、教官に注意される場面があった。発進時にアクセルとブレーキの位置を間違える人もいた。 受講した錦江町神川の無職男性(87)は、家族の送迎や買い物で毎日車を使う。「下荒田での事故は人ごとではないと思ったが、日中の路線バスは2時間に1本だけ。車のない生活は考えられず、免許は手放せない」と話した。 同校は年間で、県内最多の約7000人の高齢者を受け入れる。10月からは、運転に不安を抱くドライバーを対象に無料の相談会を開いており、必要に応じて返納も促していく方針だ。 同校シニアサポート課の下田まり子課長(56)は、「加齢によって視野が狭くなる上、首や手を瞬時に動かす能力が低下する」と分析。「焦ったり、とっさの判断を要したりする場面で大きなミスを犯す。『運転歴が長いから大丈夫』と思い込んでいる人が多く、その都度指摘するよう心がけている」と打ち明けた。
鹿児島中央署によると、下荒田の事故では、運転者の女性が「アクセルとブレーキを間違えた」と話している。女性はこれまでに認知機能を複数回検査したが、いずれも認知症の恐れはないと判定されていた。 事故をきっかけに免許を手放すと決めた人も。鹿児島市鴨池新町の主婦(79)は昨年初め、家族に説得されて車を処分したという。「自分が事故の当事者になったらと思うと恐ろしい。下荒田の事故を知って、免許も更新しないと決心した」と語った。 ◇ 鹿児島県内では、過失の重い「第1当事者」となる高齢者の割合が年々増えている。県警によると、今年1~10月の事故のうち、65歳以上が第1当事者になった件数は約3割を占め、約2割だった2014年以降、毎年増加している。 免許返納数は19年の7597人をピークに減少が続く。今年は11月20日までに5207人が返納。前年総数の5228人と同程度が見込まれている。 県警は高齢化を背景に、今後も65歳以上のドライバーは増えるとみる。交通企画課の森山英明理事官は「返納を勧めたいが、公共交通機関での移動が難しい地域事情も理解している」と話す。安全運転サポート車の導入なども選択肢だとして「高齢運転者の事故を一件でも食い止めたい。返納以外の解決策も社会全体で考えていく必要がある」と述べた。
南日本新聞 | 鹿児島