〈物流2024年問題〉へ奮闘する公務員たち。知られざる「トラックGメン」の仕事とは?
それでも「安心安全」のために使命を全うする運輸支局
師走の寒空が広がる中、JR大宮駅からバスに揺られること約20分。小誌記者が国交省の出先機関、関東運輸局の管轄下にある「埼玉運輸支局」に到着すると、数年に一度の「車検」を受けに、軽自動車や大型バス、建設工事用の重機など、大小さまざまな車が列をなしていた。 その先頭に立ち、白い息を吐きながら作業にあたっていたのは、支局に8人所属する自動車検査官だ。国家公務員一般職として採用され、検査官補として数年間の見習い期間を経た後、一人前の検査官として職務にあたる。車検証の内容と車両の状態との同一性や車両の機能性をチェックしながら、規格も重量も異なる車両を次々と手際良く検査していく。 彼らの仕事もまた「夏は暑く、冬は寒い」仕事であり、身体的な疲労も大きい。さらには、法にのっとり適正な検査を遂行していても、検査結果に不満を持った受検者に難癖をつけられることもあるという。「今年も一度、検査結果にどうしても納得しない受検者と大きなトラブルになったこともある」と團村聡支局長は話す。トラブル発生時、事象を迅速に共有・対応するため、検査官には、通報用のベルも配布されている。 埼玉運輸支局では、自動車の検査・登録の業務のほか、不適正な検査の横行や不当な労働環境の放置といった不祥事、交通事故を防ぐため、運送事業者や自動車整備工場などに監査に入る仕事も担っている。実際には、苦情申告者からの「あの事業者を処分してほしい、監査に入ってほしい」という声をもとに動くケースもある。 1992年に貨物自動車運送事業法が施行されて以降、トラック運送事業の規制緩和により新規参入事業者が急増した。一方で、乗務記録の未記載や点呼の未実施など、事業者の法令違反件数が高水準にあることが問題視されてきた。そのため、監査や検査を重点的に行う必要性は高い。
限られた人員で時代に応じた仕事を
監査というと堅いイメージがあるが、言うなれば年に1度の「健康診断」のようなもので、それを通じて事業者の健全な経営を促すことがその目的となる。 しかし、業務の特性上、事業者からはまるで「敵」のように見なされることも珍しくないうえ、先述した苦情申告者の期待に応えられなかった際には「『あなたたちは税金でメシを食べているのではないか』などと、心無い言葉を突き付けられることもあった」と團村支局長は話す。 しかし、「たとえ文句を言われようと、私たちの仕事を通じて1件でも事故を減らすことができたら本望だ。『国民の安心・安全に寄与する』という使命感を持って働いている」と、心の内を明かしてくれた。 時代の要請に応じて、運輸局の業務は年々膨らんでいる。トラックGメン創設のほか、中古車販売大手ビッグモーター(東京都多摩市)の過剰請求違反に関する立ち入り検査、ライドシェア問題や地域公共交通の再構築など、社会課題に応じて国が講じた政策を執行するのは出先機関の役割である。関東運輸局の勝山潔局長は「われわれの仕事は時代の要請に応じて増えてきている。人員増が厳しい中、限られた人数で対応していかなければならない」と話す。
仲上龍馬