大谷選手のホームランも…野球の観戦中にボールが観客に直撃してケガ 裁判でも争われた「誰の責任?」
●あらかじめわかっていた危険性
――では、ケガをしてしまったとしても、試合をしていた球団側や施設側の責任は全く問えないのでしょうか。 ただ、札幌高裁判決でいえば、女性は、野球に関する知識や関心がなかったものの、日本ハムファイターズが小学生の子どもを試合に招待したため子どもに同伴したといういきさつがありました。 このため、同判決は、そのような子どもの保護者に対しては、野球観戦契約に信義則上付随する安全配慮義務として、ファウルボールがぶつかる危険性が相対的に低い座席のみを選択し得るようにするか、保護者らが札幌ドームに入場するに際してファウルボールがぶつかる危険があること及び相対的にその危険性が高い席と低い席があること等を具体的に告知して、保護者らがその危険を引き受けるか否か及び引き受ける範囲を選択する機会を実質的に保障するなど、招待した小学生およびその保護者らの安全により一層配慮した安全対策を講じるべき義務を負っていたものと解するのが相当であると述べ、日本ハムファイターズにそのような安全配慮義務が欠けていたとして女性に対する損害賠償を命じました(ただし、女性にも過失があったとして2割の過失相殺がなされています)。 札幌高裁の判決を前提とすると、野球観戦に来てホームランボールやファウルボールにぶつかったとしても、それは観客が予め危険を引き受けていたものとして野球場やゲーム主催者に対して損害賠償請求をしても原則として認められないことになります。 ただ、ゲーム主催者が野球に関して知識や関心のない者を試合に招待したなどの特段の事情がある場合は、必要な安全配慮義務(ファウルボールが飛んで来にくい席を案内する、ファウルボールの危険性を明確に告知してそれでも試合を観戦するかと確認する等)を果たしていなければゲーム主催者の損害賠償責任が認められることになります。
【プロフィール】 本間 久雄(ほんま ひさお)弁護士 平成20年弁護士登録。東京大学法学部卒業・慶應義塾大学法科大学院卒業。宗教法人及び僧侶・寺族関係者に関する事件を多数取り扱う。著書に「弁護士実務に効く 判例にみる宗教法人の法律問題」(第一法規)などがある。 事務所名 :横浜関内法律事務所 事務所URL:https://jiinhoumu.com/