「妊娠したらすぐ帰国させる?」外国人技能実習生の赤ちゃん遺棄事件が無くならない日本の制度的な問題とは
「もう使えない」と今も扱われる女性
もっと率直にいえば、〝面倒なことにならない〞対処法として、一歩間違えばガーさんもそうなっていたように、退職に追い込んで、母国に帰してしまう。日本の法律や制度を詳しく知らず、正しい情報に行き着くのが難しい彼女たちの足元を見て、あたかもそれが最善の策だと思い込ませるようなことまでして……。 ガーさんは私たちに相談してくれたから、なんとか覆すことができたものの、「妊娠したら、もう使えない」と道具のように扱われてきた女性たちがとても多いことを、私は知っている。 そしてかつて、ほぼすべての日本人女性たちも同じような扱いを受けていたことを、多くの人が知っているはずだ。もしも今、ガーさんにやろうとしたことを日本の女性に対して行い、その事実が白日の下に晒されたら、きっと大炎上するだろう。なぜ外国人女性に対しては、いまだにこんなやり方がまかり通ってしまうのか。 私たちは今、外国人労働者が妊娠したら出産して、また仕事に復帰するという、ごく当たり前の前例を数多くつくることで、受け入れる側にとっても、労働者にとっても、それが決して難しくないことに変えようとしている。 個々の話し合いで解決するに越したことはないけれども、当たり前のことを実現させるために、団体交渉のような仰々しい場が必要となるのが、この国の実態だ。 妊娠したら、さようならと送り返す。そんな雇い方が許されていいはずはない。
---------- 吉水慈豊(よしみずじほう) 1969年、埼玉県出身。大正大学を卒業後、1996年に浄土宗の伝宗伝戒道場を成満し、僧侶となる。日本に在留するベトナム人技能実習生・留学生などが若くして命を落とすことに憤りを感じ、2013年に日越ともいき支援会を設立し、その命と人権を守る支援活動を開始する。ベトナム人技能実習生・留学生の増加にともない、劣悪な環境に置かれている彼らからの相談が急増。活動は住居の確保、帰国困難な若者たちの保護、労使交渉、妊産婦支援などにまで及び、当会は2020年に東京都より非営利活動法人として認可された。 ----------
吉水慈豊