<中国・ロシアの「兵器」と化す陰謀論>5G、マイクロチップ、殺人計画……反コロナワクチンの情報騒乱の中で流された陰謀論の正体
中露双方から発信された陰謀論が飛び交う日本
極めつけには、2021年7月に中露でメディア報道に関する二国間協定が締結された。この協定では、メディア報道とそれらが包含するナラティブに関する協力が両国政府にとって大きな目標であることを謳っている。この取り組みは、ロシアのデジタル発展・通信・マスコミ省と中国の国家ラジオテレビ総局が主導したもので、協定で双方は「情報交換の分野でさらに協力し、世界の最も重要な出来事について客観的、包括的、正確な報道を推進する」ことを約束した。 また、両国がディスインフォメーションの発信に利用してきたオンライン・ソーシャルメディアでの協力計画も打ち出され、「統合、新技術の応用、業界規制などの問題における互恵的協力」を強化することも約束されている。端的に言えば、この協定で中露はお互いのディスインフォメーションや戦略的なナラティブを拡散し合い、増幅して利用するような協力関係を築いたのだ。 この成果の一つは、ウクライナ戦争開戦後の「バイオラボ陰謀論」の復活である。ロシアがウクライナに侵攻した直後、ロシア国防省の報道官は、ウクライナの生物兵器プログラムへアメリカが資金提供を行ったとして、非難を再開した。そして数日のうちに、中国政府関係者とメディアはこの嘘を拾い上げ、喧伝し拡散した。 中国共産党傘下のタブロイド紙である環球時報は、ロシアの国営通信社スプートニクを一部引用したものと、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の言葉を引用した派手な見開き記事を掲載し、「ウクライナで発見されたバイオラボにアメリカは何を隠しているのか?」といったセンセーショナルな言葉でアメリカやウクライナへの懐疑を煽った。 実際のところ、2021年から中国当局や同国メディアは、新型コロナウイルスのパンデミックは中国国外の研究所で起きた事故が発端ではないかという説を流していた。そして、この説を補強する完璧な陰謀論がロシアから出てきた、という構図となったのである。 開戦後、スプートニクや同じく国営メディアのRT(旧ロシア・トゥデイ)などのロシアメディアのSNSアカウントは、ヨーロッパ地域では相次いで凍結されたが、この協定を利用すれば、彼らのナラティブは中国メディアやSNS上の親中アカウントを通じて容易に拡散されてしまう。 日本のように、そもそもロシア系メディアを制限していない国に至っては、その効果はロシア由来と中国由来の掛け合わせで倍以上の拡散効果となるだろう。安全保障上の懸念国が、情報戦においてもこのような協力関係にある現実を見据え、我が国でも着実な対策を練る必要がある。
長迫智子