<中国・ロシアの「兵器」と化す陰謀論>5G、マイクロチップ、殺人計画……反コロナワクチンの情報騒乱の中で流された陰謀論の正体
このような新型コロナウイルス感染症に関する陰謀論が拡散されてしまうような状況は、第1章で詳述したQアノンのディープ・ステート陰謀論に勢いを与えることになった。Qアノンの信奉者の間では、上記のような陰謀論に加えて、ウイルスのアメリカ関連生物研究所起源論やワクチン懐疑論、反マスク運動などが展開された。アメリカのシンクタンク「ソウファン・センター」の報告書をはじめとして、新型コロナウイルスによるパンデミックがQアノン拡大の契機となったことを指摘している調査研究は多い。 さらにはこのような情報騒乱環境で、陰謀論を含めたディスインフォメーションによる影響力工作も勢いを増した。
中露の武器と化すQアノン陰謀論
同報告書では、中国およびロシアがどのようにQアノンの陰謀論を利用して他国に干渉し分断を煽ってきたかが報告されている。この報告書によれば、2020年には、フェイスブックにおけるQアノンカテゴリにおける、外国からの影響力工作に関与していると判定された約19%のアカウントの内訳は、44%がロシアから、42%が中国から、13%がイランから、1%がサウジアラビアからだった。 2020年前半にはロシアのアカウント群がQアノンのナラティブ(物語)を利用して外国への影響力を発揮していたが、中国はその後、ディスインフォメーションや陰謀論を用いたキャンペーンを急速に拡大し始めている。このタイミングは、新型コロナウイルス感染症の拡散やウイグルの人権問題、アメリカの大統領選挙など、多くの課題に起因する米中間の政治的緊張の高まりと一致していると指摘されている。 そして、2021年に入ってからは、同カテゴリの投稿の58%が中国のアカウントからのものとなり、ロシアからの投稿が22%であることに比して2倍以上の割合であった。 Qアノンのナラティブを拡散することに中国が注力したのは、陰謀論を含めたディスインフォメーション戦略の拡大が要因である。中国のディスインフォメーション作戦能力は2019年以降成熟しており、この作戦への依存度が2020年に飛躍的に高まったことが報告されている。これは主に、パンデミックの影響による北京とワシントンの攻防に起因する。 そして、2020年における中国のディスインフォメーション活動の分析から、これまではどちらかというと中国の権威を増幅させるようなプロパガンダが主流であった中国が、ロシアのアプローチを模倣するようになったことが分かっている。すなわち、社会の分断や不安を煽り、自国に有利な情報操作だけでなく対立的な情報操作を行う手法に中国も移行し始めたということである。