意外と知らない!? 魚はOK、乳製品もOK、根菜はNGなどさまざま マレーシアの食事情で知るベジタリアンの奥深さ
■根菜類も食べない厳格なベジタリアン このうち厳格なベジタリアンとして知られるのはジャイナ教徒で、肉・魚など動物以外に、にんじんや玉ねぎなどの根菜や球根野菜も食べない。「生命のもとになるもの」を口にすべきでないという思想があるためだ。 ヒンドゥー教徒で禁じられているのは、牛肉。ムスリム(イスラム教徒)は、戒律で豚肉が禁忌とされている。キリスト教では肉食の制限はなく、シーク教も菜食を推奨するグループが存在するにとどまる。
つまり、ジャイナ教徒以外は「宗教的には何かしら肉を食べてもいい人たち」だ。それなのに、なぜベジタリアンが多いのか。 ■殺生を避ける思想があるインド インドには伝統的にこれらの宗教を越えて、殺生を避ける思想がある。 例えば、ヒンドゥー教で祭祀を司るバラモン階級などは、「精神を乱すもの」として、肉食全体を忌避する傾向が強い。バラモンなどの上位階級が社会に与える影響も見逃せない。 さらに、菜食料理店が多い理由として考えられるのは、多宗教国家であること。「牛肉が不可の人」や「豚肉が不可の人」が多い社会で会食する際には、どうしても「みんなで食べられる」菜食が選ばれやすい。
話をインドからマレーシアに戻そう。 マレーシアで有名なカレーといえば、魚の頭(頭側の半身)を煮込んだ「フィッシュヘッド・カレー」だ。なぜ魚のカレーが広まったのかというと、「牛肉を食べないヒンドゥー教徒」も「豚肉を食べないムスリム」も食べられるからだ。 インド系マレーシア人のベジタリアンには、鶏肉・獣肉は食べないが、魚・卵・乳製品は摂る「ペスカタリアン」が少なくない。 ■台湾の影響を受けた仏教系の菜食
マレーシアのベジタリアンは、主にインド系と華人。華人には仏教徒が多い。仏教は明確に肉食を否定していないが、仏僧は菜食とされる。 在家信者は忌避の度合いに濃淡があるものの、僧侶にならうベジタリアンもいれば、満月・新月の日や、陰暦9月の齋週間だけ精進料理を摂るなど、ゆるやかな菜食を実践する人もいる。 華人の仏教徒には台湾の影響が見られる。台湾はインドに次いでベジタリアンが多く、人口の13%を占める。「素食」といわれる台湾の精進料理は、肉や魚はもちろん、ニンニク、ショウガ、ネギ、ラッキョウ、ニラなど香味野菜「五薫」を使わない。
日本の禅寺の門前にある「不許葷酒入山門」、つまり「修行の妨げになる、酒や臭いの強い野菜(葷:くん)をもち込んではならない」という戒めと同根だろう。 このように、一口にベジタリアンといっても、背景も食べないものもさまざまだ。アジア地域の人びとと付き合ううえで「知っておきたいマナー」の1つといえよう。
森 純 :文筆業