「老後は介護保険があれば何とかなる」が大間違いなワケ
老後は介護保険サービスを活用すればなんとかなるだろう……。曖昧にそんな未来を想像する人は多いかもしれない。だが、実際はそもそも介護保険を利用し始めるまでの段階でハードルを感じる高齢者もいるようだ。その現実とは?※本稿は、沢村香苗『老後ひとり難民』(幻冬舎新書)より一部抜粋・編集したものです。 【この記事の画像を見る】 ● 介護保険が作られた前提は 「面倒を見られる家族がいること」 介護保険について押さえておきたいのは、介護保険制度スタートの際、理想の老後が「家族に看取られながら自宅で最期を迎える」ことだという点です。 もちろん自宅で最期を迎えられないケースはあるものの、「地域包括ケアシステム」の理想のもとでは、少しでも長く自宅で生活を送り、息を引き取るまで地域のなかで支えることが前提とされています。 在宅介護が望ましいとされてきたのも、あくまでも家族が介護をある程度担うことが前提となっていたからです。介護保険制度は、家族がいることを前提に、その負担を軽減するための外部サービスの利用を想定して作られたものだったといえます。 つまり、介護を担える家族がいないケースにおいて、要介護者の方にどのように対応するのか、十分に想定していなかったとも言い換えられます。 現実には、家族がいない要介護者の方は少なからず、存在しています。さらに今後「老後ひとり難民」が増えていくとすれば、現在のような介護保険サービスでは対応できない場面が増加していくおそれがあります。
● 「介護保険があるから」は 老後の安心材料ではない 高齢になり介護が必要になった際、真っ先に介護保険サービスの利用を検討すべきであることは間違いありません。介護保険は、社会を支える重要な役割を担っています。 しかし「介護保険があるから大丈夫」といえるのかといえば、残念ながらそうではありません。 まず、介護保険サービスを使うには、申請や契約が必要となります。 そのためには、まず本人や家族などが「介護保険サービスが必要だ」と判断しなければなりません。当たり前のことだと思われるかもしれませんが、自分や身内の心身の衰えが少しずつ進んでいくなか、「今こそ介護保険サービスを利用すべきだ」という判断を的確なタイミングで下せるとは限りません。 なかには、「介護?人の世話になるなんてとんでもない」といった考えを持っている方もいます。 また、介護サービスを利用するということは、家のなかにヘルパーさんなど他人が入ってくるということでもあります。「家に他人が入ってくるのはイヤだ」という高齢者は少なくないのです。 ましてや高齢期になると足腰が痛むなどで、部屋の片づけが以前のようにできなくなることも多々あり、赤の他人に散らかった部屋を見られたくないという気持ちにもなるのでしょう。 ● 介護保険サービス 利用までのハードル 「介護保険サービスが必要だ」と判断できた場合、介護保険の利用を申請する必要があります。 具体的には、市町村の介護保険担当課や地域包括支援センターに連絡し、要介護認定の申請書を入手して必要事項を記入し、主治医の意見書を添えて市町村に提出します。 その後、認定調査員が訪問し、要介護認定を受けるという流れです。 これらのステップを本人や家族などが進めることで、介護保険サービスの利用が可能になるわけです。 ひとり暮らしで頼れる身寄りがいない「老後ひとり難民」が、これらの申請や契約をひとりでこなすというのは、相当にハードルが高いといえます。 もちろん、地域包括支援センターなど適切な窓口にたどり着くことさえできればなんとかなると思いますが、身体の自由がきかなかったり、認知症を発症したりしていれば、「窓口に相談しよう」という意思決定や実行が容易にできない可能性もあるはずです。