暴れることでストレス発散していた男の子を変えたのは、クラス全員での見守り!卒業式前日「大丈夫やで。オレはもう暴れたりせえへんから」彼は校長に言った【みんなの学校・木村泰子さんに聞いた親子の物語】
「教室で一番困っているのは、誰や? 校長、それぐらいわからんのか?」
暴れる衝動については、なかなか難儀でした。ただね、これも私が何かしたというよりも、同級生の言葉がこの子の心に響いたんですね。それがきっかけで、ピタリとなくなりました。 この子は決まって、算数の授業が始まって15分くらいすると、机をバーンと倒して暴れ出していたんです。ある日、「そろそろやな」というタイミングで私は教室をひょいとのぞきました。すると、今まさに机をひっくり返そうかというときで、周りの友だちがこの子からスーッと机を離し始めていたんです。これから机を倒そうとしているこの子のことを、周りは「いやだ」「避けたい」「こいつから逃げたい」と思っているのだろうなと私は想像したんですね。 「あんたら、案外冷たいんやなー」って私は言い放ちました。その瞬間、「校長、バカちゃうかー!?」って、私が子どもたちから一斉に糾弾されたんですよ。これにはびっくりでした。 「教室で一番困ってるのは、こいつや。オレらはいっこも困ってない。こいつが机倒して、筆箱ぶん投げて、もし周りがちょっとでも怪我してみ? 困ってるこいつが、もっと困るやろ? だから、机離してん。それくらいわからんか!?」 私とクラスメイトたちのこんなやりとりを呆然と聞いているうちに、この子は教室で暴れるタイミングを逃してしまったんです。そしてこの日以来、ピタッと暴れる行為をやめました。一度も暴れなくなりました。 私の言葉や行動なんて、何一つ、響いていません。周りの子どもたちが、この子を変えたんです。
卒業式の前日に校長室にやってきた子。「大丈夫やで。オレはもう暴れたりせえへんから」
この子は卒業式の前日、校長室に来て、私にこう尋ねました。「校長先生、中学に行ってオレが暴れないか、心配してるやろ?」と。私は正直に「うん、ちょっとしてる」って答えました。 「大丈夫やで。オレはもう暴れたりせえへんから。オレな、“三文字”見つけたから」。 「え? それ、何?」と尋ねると、「が・ま・ん」と言ったんです。 私は自分が我慢するのも嫌だから、子どもたちに「我慢しろ」なんて言ったことがないんですよ。この子が暴れまくったり、落ち着きない行動を繰り返していたときも、一度も言ったことはありませんでした。 あれだけ暴れて、フラフラしていた子から「『が・ま・ん』の三文字を覚えたで! だからぜーったい、大丈夫」の宣言を聞いたときは、本当にのけぞるほど驚きました。 私たち教師が指導したことは、一瞬で子どもの中を通り過ぎてしまいます。でも、子どもが自分自身の力でつかみ取ったものは、一生、消えません。この子が周りの子ども達の中でつかんだものは、これからもずっと大事にしていくはずですし、この子の中にあり続けるでしょう。 卒業してからもう何年も経ちますが、子どもの成長や学びの本質について考えるとき、この子の姿がいつもふわっと思い出されます。 *本記事は『お母さんを支える言葉』に所収のエピソードを元に、新たに取材・再構成したものです。 【教えてくれたのは】 木村泰子さん|大阪市立大空小学校・初代校長 大阪府生まれ。大阪市立大空小学校初代校長として、障害の有無にかかわらず、すべての子どもが共に学び合い育ち合う教育に力を注ぐ。その取り組みを描いたドキュメンタリー映画『みんなの学校』は大きな話題を呼び、文部科学省特別選定作品にも選ばれた。2015年に45年間の教員生活を終え、講演活動で全国を飛び回る日々を送っている。『「みんなの学校」が教えてくれたこと』『「みんなの学校」から社会を変える』(小学館)など著書多数。新刊に母親に向けたメッセージ本『お母さんを支える言葉』(清流出版)がある。
取材・構成/渡辺のぞみ イラスト/本田亮