暴れることでストレス発散していた男の子を変えたのは、クラス全員での見守り!卒業式前日「大丈夫やで。オレはもう暴れたりせえへんから」彼は校長に言った【みんなの学校・木村泰子さんに聞いた親子の物語】
グランドピアノに傷をつけちゃった!修理代20万円!
暴れることで溜め込んでいたストレスを発散させるようになった男の子。 ただ、この子には前から、あちこち動き回ったり、周囲のものを手当たり次第さわったり手に取ったり…というようなクセがあったんです。自分を落ち着かせるために物をさわるんですね。たとえば友だちと折り合いつかなくてイライラすると、ふらっと職員室に来て、そこらへんをうろつき、いろんな備品に手をつけます。こうして気持ちをクールダウンさせていましたが、傍目には、フラフラしている、落ち着きがないと映ることもありました。 【画像6枚】「わかった。20万円用意する」と母親に言われた息子 ある日、この行動のクセが、ちょっとした事件を起こします。音楽会の練習中のこと。待ち時間に手持ち無沙汰だったのか、この子はいつものようにじっとしていられなくなりました。ピアニカのマウスをグランドピアノの蓋の上に置いて、転がり落ちるのを眺めていたら、面白くなってしまったんですね。遊びがエスカレートしてピアニカ本体で試したら、転げたピアニカが、グランドピアノの蓋に大きな傷を残してしまったんです。 「しまった!」という困った表情で、この子はピアノの横で固まっていました。 同級生の知らせで駆けつけた私は、微動だにしないこの子の姿を見て、「これはチャンスや!」と思いました。「この子が自分をアップデートできるチャンスや」と。 事情を聞いた後、「しゃあないな。こんなこともあるかな」と淡々と言うと、「事なきを得た」と思ったのか、この子はほっとした表情を浮かべました。そして、すかさず私はこう続けたんです。 「でも、ピアノは修理せなあかんやろ? 傷を直すだけなら20万円くらいかな。今日帰ったら、お母ちゃんに『修理代20万円用意して』って頼みや」
「わかった。20万円用意する」と母親に言われた息子は…
「校長先生、ひどすぎるわ。家が大変なときに、なんでそんなことをあいつに言うん?」と、周りの子どもたちがわーっと校長室に抗議に押し寄せました。私は完全に、悪人です(笑)。この時、内心「あんたらすごいなあ!周りの子、育ってるやん」とものすごく嬉しかった。そして、これは私のちょっとした策であることを子どもたちに言いました。 「いいか、これは作戦や。あいつには言うたらあかん。修理代なんて、どうってことない。親が出さんでもなんとでもなる。でもな、あいつは人のものあれこれさわったり壊したりして、いつも怒られてるやん。あいつが変わるために必要なことやから、みんな、黙り通して」 この子は私に言われた通り、家に帰ってから母親に自分がしたことを話したんです。母親は、「わかった。じゃあ、20万円貯めるね」って答えました。もちろん、母親と私は口裏を合わせていました。 ■「このクセ直す。お母ちゃんを裏切ることはできん」 翌朝、この子は校長室に「お母ちゃんが20万円用意してくれるって」と、報告に来ました。それを聞いた私はこの子に尋ねました。 「なあ、お母ちゃんがお金用意してくれるって聞いて、どう思った?」 「ものすごい申し訳ないと思った。今、うちにはそんなお金ないのに、オレがあんなことせえへんかったら20万円も用意しなくていいわけだから。すごく困っている」と。 「そうなんや、じゃあ、どうする?」と私が再び尋ねると、この子は少し考え込んでから、こう言ったんです。 「オレ今まで、いろんなもんついさわっては、壊してきた。今回もそう。オレ、このクセなくす。お母ちゃんは怒りもせんと『やってしもうたんなら、しゃあないないな。お前のために20万円用意するわ』って言った。こんなふうに言ってくれたお母ちゃんを、オレは裏切ることはできん」 教師の罰なんて、子どもには響きません。この子の心に響いたのは、母親の言葉だったんです。 私は、この子の決心を受け止めて「そっか。そう思うんなら、やり」って言いました。そして「まかしとき。どこまでできるかわからんけど、業者に『ただで直して』って、先生頼むわ」と伝えると、表情がぱっと明るくなり「頼むで!」と満面の笑顔で言いました。 その後、職員室に来るとき、この子は自分の両手を固く握り合わせていました。「なにしてるん? 手、痛いんか?」って聞くと、「物にさわらんようにしてんねん」って答えるんです。健気でしたね、本当に。 あれこれさわる落ち着きのなさは、この事件をきっかけに、徐々におさまっていきました。