不発の森保J3バック挑戦は正解だったのか?
ゴールを期待するスタンドの大歓声が、何度ため息に変わったことか。後半26分にベンチへ退くまで大量7本を打ちまくったMF中島翔哉(アル・ドゥハイルSC)を筆頭に、日本代表の選手たちが放ったシュートはトリニダード・トバゴ代表の5倍となる25本を数えた。 豊田スタジアムで5日に行われたキリンチャレンジカップ。FIFAランク93位のトリニダード・トバゴを攻めあぐねた、同26位の森保ジャパンがゴールネットを揺らすシーンは最後まで訪れなかった。令和初の国際Aマッチは、消化不良のままスコアレスドローに終わった。 昨年9月の初陣から一貫して4バックで戦ってきた森保一監督が、通算15戦目にして初めて3バックを導入した。サンフレッチェ広島監督時代の代名詞であり、兼任している東京五輪世代のU-22日本代表ではベースにしている3バックに関して、指揮官は試合後の公式会見で「これまでも何回か『試そうかな』という思いをもって活動してきた」と胸中を明かしたうえで、こんな言葉を紡いだ。 「昨年のワールドカップ・ロシア大会をコーチとして経験させてもらったなかで、4バックは西野朗監督がやられていたことであり、いろいろな選手にも合っている。変に急いで次のオプションを作っていくよりも、ベースを固めながらオプションを作ることを考えていければいい、と」 西野前監督も初陣となったガーナ代表とのワールドカップ壮行試合で、キャプテンの長谷部誠(アイントラハト・フランクフルト)を中央にすえる3バックを採用している。もっとも、しっくり来なかったこともあってすぐに慣れ親しんだ4バックに戻し、ロシア大会でのベスト16進出へつなげた。
日本代表における3バックを振り返れば、イタリア人のアルベルト・ザッケローニ元監督も幾度となく導入を試みながら最終的に断念している。実際にプレーしていた長友佑都(ガラタサライ)は「まったくはまらなくて、自分自身も混乱していた」と当時のチーム状況を振り返る。 近年の日本代表と相性が悪い3バックを、なぜ森保監督はこの時期になって導入したのか。答えは2022年のワールドカップ・カタール大会出場をかけた、アジア二次予選が9月から始まることが確定し、その前における最後の国際親善試合が今回のキリンチャレンジカップとなるからだ。 今年1月のアジアカップにおける覇権奪回を最初の目標にすえていたため、昨年内に行われたキリンチャレンジカップ5試合はすべて4バックで戦った。メンバーを大幅に入れ替えた今年3月シリーズでは、チーム内の混乱を避ける意味で4バックを継続することを選択した。 だからといって、ワールドカップ出場をかけた公式戦でテストを積み重ねていくわけにもいかない。ましてや、準優勝に終わったアジアカップで身をもって経験したように、中東勢をはじめとするアジア各国のレベルは急激にあがってきている。アジア大陸の出場枠が現状維持の4.5となったいま、過去にない厳しい戦いが待ち受けていると覚悟しなければいけない。 今後のスケジュールを見れば、コパ・アメリカは東京五輪世代がメインとなるチーム編成で臨む。7月および8月にはフル代表の活動が組まれていない。つまり、戦いの幅を広げさせるオプションをチームに植えつけるには、今回のキリンチャレンジカップが最初で最後のチャンスだった。 全員がそろっての戦術的な練習を開始した3日に、初めて3バックへのトライを選手たちに告げた。練習できたのはわずか2日間。4バックとの役割の違いや周囲とのコンビネーションなど、過去の日本代表が直面してきた壁を乗り越えるには、あまりにも少ない時間だった。 「特にウイングバックは前へプレッシャーをかけるのか、危険を察知して後ろへ下がるのか、あるいはあえて中途半端なポジションを取って相手を混乱させるのか、といったことを考えながらプレーしないといけない。本当に頭が疲れましたよ。僕らのポジショニングひとつでチーム全体が狂うので」