“真実”はテレビ局で作られる…「調査開始前にすでに犯人は決まっていた」元職員が語る露テレビ局の「捏造」の瞬間
本当かウソか
あの運命の2014年7月17日、分離独立派がドンバス上空でボーイング旅客機を撃墜した時、わたしは職場にいた。夜のプライムタイムの時間だった。 幹部たちも仕事をしていたので、決定は瞬く間に下された。墜落現場からの映像はまだ一つもなく、ブラックボックスも解析されていなかったが、撃墜犯はもう見つかっていた。すべての責任をウクライナになすりつけなければならなかった。 事故の第一報は、墜落から40分後の『イブニング・ニュース』で伝えられた。ドネツクを拠点とする記者が「ウクライナのスホイ戦闘機がスネージノエ市の近くで旅客機を攻撃し、撃墜した」と伝えた。『ヴレーミャ』では軍事評論家が説得力をもって語った。 「旅客機を撃墜できるのはウクライナ軍の地対空ミサイルシステム〈ブーク〉だけだ。叛乱軍にはこのような兵器はない」 番組終了間際にエカチェリーナ・アンドレーエワがいわくありげな声で伝えた。 「ウクライナ軍の標的はロシア大統領機だった可能性があります。ロシア航空局の情報源は、匿名を条件に、ロシアの大統領専用機とマレーシア航空ボーイング機は同一地点、同一高度で交差しており、それはワルシャワ近郊だった、と語りました」 偽情報はたいへんプロフェッショナルに、かつ説得力をもって報じられるので、時にはわたし自身、全部が偽というわけでもないのではないかと思えてしまうほどだった。 ましてやモニターの向こう側にいる一般の視聴者にとってはなおさらのことだ。信じ難ければ信じ難いほど、ウソはよろこんで信じてもらえるものだ。 8年後、オランダ・ハーグの裁判所は、ロシアのすべての主張を審理し、いずれも成立しがたいとした。 国際合同調査団は、マレーシア航空機は、ロシアから搬入され、その後、再びロシア側に搬出された地対空ミサイルシステム〈ブーク〉によって撃墜されたと結論づけた。 3人の分離主義者が有罪判決を受け、当事者不在のまま終身刑を言い渡された。判決直後、オランダはロシアをテロ支援国家に指定した。 わたしは身震いして目が覚めた。頭が割れんばかりに痛かった。起き上がり、搭乗ゲートに向かった。 ロシアへの帰国が、わたしにとって本当の試練になることはわかっていた。しかし他の選択肢はなかった。 『元夫に愛娘を監禁され、母親と息子は陰謀論にどっぷり…幸せな家庭を崩壊させたロシアのヤバすぎる「プロパガンダ」』へ続く
マリーナ・オフシャンニコワ