「メタバース熱」が冷めてしまった納得するしかない理由
「メタバース」にまつわる言葉の誤解
AI(人工知能)ベンダーUnanimous AIのCEO兼チーフサイエンティストであるルイス・ローゼンバーグ氏は、「言葉にまつわる誤解も、関心低下の一つの要因だ」と指摘する。 業界では何年もの間、没入型技術を表す際にVR/AR(拡張現実)といった用語を使用してきた。2021年10月にFacebookがMetaに社名変更したことも手伝い、業界用語としてのメタバースが大々的に宣伝された。 ほとんどのメディアは、メタバースを「パラレルワールドを実現する仮想空間」として伝えた。VRヘッドセットで現実世界と仮想空間が融合し、誰もがメタバースの住人となって、仮想通貨を用いた決済が主流となる世界だ。しかしこのようなイメージは、Metaの趣旨とも企業のニーズとも合っておらず、結果として世間の期待はしぼんでしまった。 いま市場は、用語としての「メタバース」から脱却し、より包括的な市場の捉え方を定義している段階だ。 例えばAppleは、没入型技術の総称としてメタバースではなく「空間コンピューティング」を使っている。この用語は、没入型技術の日常生活への適用に焦点を当てたものであり、ローゼンバーグ氏はこの動きをポジティブに捉えている。一方で、「仮想現実や複合現実といった、市場で30年以上にわたり使われてきた用語を弾圧すべきではない」とも警告する。 調査会社Capgemini Research Instituteの技術部門Capgeminiで体験およびイノベーション担当バイスプレジデントを務めるマイク・ブオブ氏は、言葉としてのメタバースはそろそろ終わりを迎える、と話す。「恐らくメタバースという言葉には、この先もネガティブな意味合いが付いて回るだろう」(ブオブ氏)
メタバースは結局どうなるのか
「他の技術と同様、メタバースも典型的なハイプサイクル(調査会社Gartnerが作成している、技術の成熟度や採用度を図示したもの)の幻滅期の真っ只中にある」。こう話すのは、IT関連サービス企業TEKsystemsのラメシュ・ヴィシュワナサン氏(シニアプラクティスディレクター)だ。 ヴィシュワナサン氏によると、初期にメタバースを受け入れたのは主に「ゲーマー」(ゲームをする人)だった。メタバースは未来的でニッチなイメージがあり、一般人はその用途すら想像できなかったという。さらに、VR(仮想現実)デバイスは重くかさばり、装着時の煩わしさがあった。「ほとんどの人は、友人との会話や会議といった用途にメタバースを使おうとは考えなかった」(ヴィシュワナサン氏) しかし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の大流行で状況は一変する。コロナ禍で誰もがステイホームを余儀なくされた時期に、メタバースは交流の場として大きな注目を集めた。だが、ひとたびパンデミックが落ち着くと、人々は再びリアルな体験を切望するようになった。 「メタバース市場はハイプサイクルの幻滅期を迎え、落ち着きこそ見せているものの、終わったわけではない」。こう話すのは、NASAジェット推進研究所のクリス・マットマン氏(最高技術責任者兼イノベーション責任者)だ。 近年はビジネスシーンでのメタバース活用が進む。例えば、職場のミーティングで、「Zoom」や「Microsoft Teams」などのWeb会議ツールの代わりに、メタバースを採用するケースが広がっている。特に相手と対面でやりとりしているようなリアル性を求める人々は、以下のようなVRサービスを利用しているという。 ・Spatialの「Spatial」 ・Glue Collaborationの「Glue」 ・Metaの「Horizon Workrooms」
TechTargetジャパン