日本給食サービス協会、会員の取り組み事例の共有で、給食の仕事を通じたSDGsへの貢献を推進
〈一冨士フードサービス、CO2排出総量など現状値の可視化でSDGsを取り組みやすく〉
一冨士フードサービスの高野美智子氏は、SDGs推進委員会事務局としての活動内容を紹介した。同社では中期経営計画の戦略の1つに、「事業活動を通じたSDGsの推進」を掲げており、2022年8月から具体的な活動を開始した。 SDGs推進プロセスは、国際ガイドライン「SDGs Compass」をもとに設計。5つのステップのうち、ステップ1「SDGsを理解する」、ステップ2「優先課題を特定する」、ステップ3「目標を策定する」を終えて、現在はステップ4「経営へ統合する」に取りかかっている。 ステップ2「優先課題を特定する」を開始する際には、13名の社内プロジェクトを立ち上げ、〈1〉2030年のありたい姿の作成、〈2〉ステークホルダーへの調査の実施、〈3〉優先課題の特定、〈4〉最重要課題の特定――を行った。 高野氏は〈1〉について、「我々の本質的な強みは何かを確認した。その強みを用いて給食を提供することが、社会にどのようなインパクトを与えているのか、コーポレートスローガンである『未来の元気を想像する』につながっているのかも確認した」と述べた。 〈2〉では、顧客やメーカー、卸、厨房機器メーカー、衛生関連企業など様々な分野の取引先88社や社員1922名、新卒内定者76名に協力を依頼した。働きがいや労働環境改善、食品ロス削減、エネルギーや資源の効率化など課題を集計後、そのうち、どれを会社として最重要課題と捉えるか、経営層を巻き込んで議論を展開。最終的に、10の最重要課題を特定した。「“栄養バランスの取れた食事提供による健康増進”や“食品ロス削減”など、会社として集中して行うべきマテリアリティ6項目と、“人材の育成・成長機会の創出”や“社員の成長を促す人事制度の整備”など、当社が持続的に成長するための基盤となるものの4項目から成る。2つのテーマに分けたのは当社独自の考え方だが、当社として最良の考え方と判断した」と語った。 ステップ3「目標を設定する」では、10の最重要課題ごとにチーム分けを行い、個別のプロジェクトチームを新たに組成。SDGs推進委員会は総勢53名に拡大した。特に、マテリアリティ6項目では、多方面からの検証が必要と判断して、部門横断型で若手社員から役員まで、年齢・役職も様々なメンバーで構成した。 高野氏は「非財務資料と言われるものにあえて指標を定めて、目標を数値化することが難しかった。他社の真似事では目標が実現できないため、当社に見合った基準を自分たちで決めていく点に苦労した。特にマテリアリティ6項目は、当社として初めての取り組み課題である。そのため、まずは現状値を知るところから始まった」と語った。 数値目標の策定事例としては、温室効果ガス削減の目標設定をあげた。 成果目標はCO2排出総量2022年度対比29%削減とし、2030年度を達成期限とした。 「これは、日本の温室効果ガス削減目標をベースに考えている。国が掲げる目標は、2030年度の温室効果ガスを2013年度対比で46%削減するものだ。2020年度時点では、この目標達成のために残り29%の削減が必要であることが分かり、当社も国の目標に貢献すべく、2022年度対比29%削減を目指した」と説明した。 次に、この目標達成に向けて、現状値を知るプロセスを説明した。 「当社が排出するCO2の大半は(運営を受託する学校、社員食堂、病院・介護施設など)事業所における厨房内の調理作業からである。ただ、全ての事業所の調査をするのは大変なので、当社独自の算出方法を決めた上で、調査先を限定した。各給食業態で、提供食数の中心値に該当する約70ヶ所の得意先様に協力してもらい、ガス・電気・水道の使用料を調査した。その他、社有車、物流関係、食品ロス、コピー用紙などについても社内調査を行い、それぞれCO2排出量を算定。その結果、算出したCO2排出総量は、4万1,233トンCO2だった」。 算出で分かったこととして、高野氏は「厨房内で使用する電気・ガス・水道を一気に削減することは業務上現実的ではなく、できる限りの無駄を排除しながら、節電・節水をしていくことが大事だ。食品ロスのCO2排出係数は高く、ロス削減による結果は見えやすい。また、紙の使用削減は取り組みやすく結果も見えやすいが、全社のCO2排出量の0.2%しか占めていない。このように、数値として見える化できたことは、CO2削減を推進していく上でイメージしやすくなった。また、温室効果ガス削減の目標達成のためには、最重要課題で掲げた、サステナブルな商品の調達やDXの推進、食品ロス削減との連携も不可欠であることが明確になった」と成果を語った。 最後に、高野氏は「SDGsが他人ごとから自社ごとになり、さらに自分ごととして捉えられることで、日々の業務改善も、SDGs視点で捉えた自発的な取り組みが増えており、社員の意欲活性化にもつながっている。来年には、各重要課題について、どの程度数値が変化したか、結果が出てくるので楽しみだ。これからも社会課題の解決に取り組んでいきたい」と語った。 協会の教育・研修事業に取り組む東雅臣氏(東京天竜代表取締役)は、「我々、給食サービス事業者にとっては、安心しておいしく、楽しく、安全に食べられる給食を提供するとともに、栄養管理・衛生管理についても考えながら食育活動を行っていくことが大きな課題になっている。会員2社のSDGsに取り組んでいく上での工夫点や苦労話は、給食に関わる方々にとって興味深い内容だったのではないか。これから取り組む企業は参考にしてほしい」と語った。 協会は、ホームページ上で会員によるSDGs取り組み事例を多数掲載している。CO2やフードロスの削減、環境負荷を考慮した食材の使用、食育の推進など、取り組みは多岐にわたる。事例を共有することで、給食業界におけるSDGsの取り組みを推進する考えだ。
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