リーグ最多安打の新記録がかかった打席で、送りバント 大商大が誇るドラフト候補は「チームが勝つことしか考えていない」
勝てば関西六大学リーグ優勝が決まる大阪経済大学との3回戦。0-1で迎えた九回裏。無死一、二塁の好機で打席が回った大阪商業大学の4番打者・渡部聖弥(4年、広陵)に、富山陽一監督が出したサインは「打て」だった。前日の2回戦でリーグタイ記録の通算119安打を放ったばかりだった。ここまで無安打。1本打てば新記録となる。 【写真】大経大との大一番で先制の適時二塁打を放ち、笑顔でガッツポーズ
富山陽一監督は「人間的に素晴らしい」と絶賛
だが、渡部は「絶対にチームが勝つため」とバントの構えを見せ、投前に犠打を決めた。1死二、三塁から続く春山陽登(2年、敦賀気比)の内野安打で同点となり、代打で登場した蜷川大(3年、広陵)の左前適時打でサヨナラ勝ち。劇的な勝利で6季連続のリーグ優勝を決めた。 「記録はどうでも良かったんです。チームが勝つことしか考えていなかったんで」。渡部は試合後、優勝の喜びをかみしめながら、こう振り返った。37年ぶりの記録更新よりも、大一番での打席はチームのための打席として集中した。その判断を富山監督は「人間的に素晴らしい」と絶賛した。 1年春からリーグ戦に出場し、チームの中軸を担ってきた。1年春にベストナイン(外野手)を獲得し、2年春には首位打者。2年秋には1シーズン最多本塁打(5本)による特別賞など、タイトルを総なめにした。リーグを代表する強打者に成長し、常にトップを走ってきた。 3年生になってからは大学日本代表にも選出された。ドラフト上位候補と早くから目されて期待値もぐんぐん上がり、スタンドから注がれるNPBスカウトの目線も一層熱くなっていた。
苦しんだ教訓を生かし、修正することを徹底
今春のリーグ戦。開幕となった大阪学院大学との1回戦で1安打を放ったが、思うようなバッティングができていなかった。状況によって勝負を避けられる場面もあり、大院大との2回戦、続く龍谷大学との1回戦と2試合連続無安打だった。全10試合で複数安打を放った試合は2試合だけ。打率も2割2分に終わった。 注目されるからこそ、打ちたい、結果を残したい。そう思うがあまり、空回りが続いた。スタンドを見上げれば、自分の動きを目で追うNPBのスカウトの姿が自然と視界に入る。やらなきゃ、打たなきゃ。その言葉が自分を追い詰め、見えない重圧となってのしかかった。 今ではその教訓を生かして、修正することを徹底できるようになった。打てなかったからといって下を向くのではなく、なぜ打てなかったのかを前向きに考え、次の打席に生かす。 「春のリーグ戦が終わってから、1、2打席目でダメでも、そこからどう切り替えるかを考えるようになりました。春はチャンスで回ってきて、力んで打てなかったことがいっぱいあったので、そういう経験を踏まえて少しずつ意識を変えないといけないと思いました」 今秋の龍谷大2回戦では、3打席を終えて内野ゴロが二つ、1三振と振るわなかった。それでも何が良くなかったのか、試合の合間に自分の打席を振り返った。ボールをしっかり見つめ、4打席目で二塁への内野安打。5打席目では逆方向にしっかりとはじき返した。