リーグ最多安打の新記録がかかった打席で、送りバント 大商大が誇るドラフト候補は「チームが勝つことしか考えていない」
リーグ最多に並ぶ一打は、貴重な先制タイムリーに
大経大との大一番は先勝を許し、後がなくなった。2回戦。0-0で迎えた六回、2死三塁からリーグ最多安打に並ぶ通算119本目の安打を左中間に放った。適時二塁打だ。塁上で渡部は、普段ほとんど見せないガッツポーズを繰り出し、喜びを爆発させた。 試合後、リーグタイ記録について問われると、軽やかな口調で答えた。 「達成できたんだなっていうのはあるんですけれど、先制打を打てたことが良かったです。心境的にむちゃくちゃ気合は入っていたんですけれど、それが良い方向に出ました。カットボールをいい感じにとらえることができました」 この日は、力まなかった。ここまで2安打を打っていたから気持ち良く打席に入れたのではない。集大成の秋。修正する部分を見据えながら、あくまでこの打席のこの場面に集中し、無心でバットを振った。 決戦となった3回戦は、無安打でも今の自分に何ができるかを冷静に考えた。答えは「チームが勝つことがすべて」。余計な欲を捨てた。それが自然と犠打への判断に変わり、チームの勝利に結びついた。 リーグタイ記録を達成した2回戦は、10球団のNPBスカウトがスタンドに詰めかけた。スタンドの目線は気にならなかった? というこちらの問いに、穏やかな笑顔を浮かべて渡部はこう言い切った。 「もう慣れました。視界に入れていないというわけではないんですけど、今はもう、全く気にならなくなりました」。この秋、渡部は最優秀選手賞と首位打者(4割3分8厘)、ベストナインなどのタイトルを獲得した。 24日にはドラフト会議を控える。その後、11月1日から始まる関西地区大学野球選手権で、明治神宮大会出場をかけた戦いが始まる。 大学野球有終の美は、まだ先だ。
沢井史