角田裕毅は「異例の戦略」でモナコ8位を奪取 ペースを抑えて「わざとゆっくり」走った理由
【本来の実力とはまったく違う次元の走り】 本来のペースで走れば、前のルイス・ハミルトン(メルセデスAMG)と変わらない速さで走れてしまう。しかし、そうすると後続がついてこられず、後方には大きなギャップができてしまう。 20秒以上のギャップがあれば、後続は自由にピットインができる。するとフレッシュなタイヤで一気に追い着いて抜かれてしまうリスクがある。だから、わざとゆっくり走り、後続勢を引きつけてトラフィックを作り、ライバルがピットインできないような状況を作り出す必要があったのだ。 角田自身が前と同じペースで走っていると、このアンダーカットと呼ばれるピットストップを許してしまううえ、それに対してペースを上げて対抗する余地がなくなってしまう。そういう意味でも、ペースをコントロールして後方を引きつけるのと同時に、前に空間を持っておくことが重要だというわけだ。 もっと厄介なのがSC(セーフティカー)やVSC(バーチャルセーフティカー)で、前を走る角田はピットインすると、後続勢がステイアウトしてひとまず前に出るという戦略を採られてしまう。逆にピットインしなければ、後続勢がピットインしてフレッシュなタイヤに履き替え、背後につかれてしまう。それをさせないために、SCやVSCでピットインする際に必要な約12秒のギャップも相手に与えることはできなかった。 つまり、相手の後方12秒以内には、常に後続車両がいる状況を維持し続ける必要があったのだ。だから角田は「あと0.5秒遅いペースで走ってくれ」「1ステップだけプッシュしてもいいぞ」といったエンジニアからの指示を受けながら、本来の実力とはまったく違う次元の走りをし続けていたというわけだ。 78周のレースを通してルクレールがマクラーレン勢に対してやっていたのも同じことで、中団トップの角田も同じことをやっていた。彼らは12秒後方と20秒後方を見ながら、ペースをコントロールしていた。それが今年のモナコGPだった。