税理士「さすがに税務署から『安すぎる』と指摘されてしまいます」…会社を「1,000万円」で譲ろうとした70歳社長の“誤算”
佐伯さん「Y社株式は1,000万円で引き受けてもらいたい」
Y社の直前期決算の主な内容は【図表】の通りである。 佐伯さんは会社を引き受けてくれる上原さんに対し、「なるべく負担をかけたくない」という気持ちであったが、長年連れ添ってくれた妻、一人息子のためにお金を残してあげたいという想いもあった。そのため、Y社株式は1,000万円程度で上原さんに購入してもらいたいと考えた。 佐伯さんは上原さんに自身の考えを伝えた。 「Y社は現預金が潤沢にあるわけではないので、役員退職金はいらない。ただし、家族には幾ばくかの現金を残してあげたい。Y社株式は1,000万円で買い取ってほしい」 上原さんは資本金相当額である300万円で自社株を引き受けるつもりだったため、1,000万円という金額に対して大きな抵抗感があったが、佐伯さんの家族への気持ちを汲み、承諾することにした。
ところが、税理士から告げられた「株式評価額」に驚愕
佐伯さんは株式評価のルールについて詳しかったわけではないが、「利益や純資産が大きければ大きいほど評価額が高くなる」ということは知っていた。直前期の利益がわずかであったことから、佐伯さんは1,000万円程度でY社株式を売却しても問題ないだろうと予想していた。 後日、株式の評価を依頼していた税理士から連絡があった。 「Y社の税務上の株式評価額は約4,000万円です。社長と上原さんは第三者の関係といっても、1,000万円ではさすがに『安すぎる』と税務当局から指摘されてしまう可能性があります」とのことだった。 ――会社の株式ってこんなに高いの!? 「ウチなんて大したことない」と思っていた佐伯さんは驚いた。
上原さんは株式を引き受ける覚悟をもてなかった
税理士によれば、「20数年前に購入した本社兼工場土地、過去に特別償却*を適用している機械装置の含み益の影響が大きい」との理由で純資産額を超える評価額になったとのことだった。佐伯さんは「私は1,000万円で構わない」との思いだったが、税理士から「評価額との差額が『贈与である』と指摘されるかもしれない」との説明を受け、上原さんと相談することにした。 *特別償却…早期に減価償却できる優遇税制。株式評価上、機械装置は特別償却を適用しなかったものとして計算した金額で評価すること等が一般的。 上原さんは「1,000万円以上の借金は負いたくない」の一点張り。何度も交渉を繰り返したが、結果的に株式の売買には至らなかった。佐伯さんはモチベーションの下がった上原さんに社長の座を譲るわけにもいかず、今も働き続けている。