【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第21回「対決」その2
ついにゲソの恨みがからんだ2人が激突
令和2年当時、白鵬も、鶴竜も青息吐息の状態で、とても両者相譲らず、がっぷり四つの状態とはいえませんが、大相撲の歴史を紐解けば、ライバル同士が激しく歯を剥きあう、対決の歴史でもありました。 戦後も、栃若に始まって、柏鵬、北玉。 最近も、貴乃花、曙の貴曙、白鵬、朝青龍の青白など、なつかしく思い出されるファンも多いんじゃないでしょうか。 でも、そんな大相撲史に名前が残るような名力士、大力士だけでなく、多くの力士たちがさまざまなかたちで対決を繰り広げています。 そんな土俵の片隅で火花を散らしあった珍対決集です。 ※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。 【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第4回「懸賞、賞金」その2 ゲソ臭い戦い 世の中、何が怖いって言ったって、食いものの恨みほど怖いものはない。まして食べることも稽古のひとつであり、その執着が尋常ではない力士たちの場合は。 東京にゲソがすごくうまい寿司店があり、千代大龍はひそかに通っていた。ゲソはご存知でしょうか。イカの足のことで、これを好む食通は意外に多いんです。千代大龍もその一人で、「ひそかに通っていた」というところにそのこだわりぶりがうかがわれる。 ところが、どこで聞きつけたのか。あるときから御嶽海もこの店に通い始め、千代大龍が行く前にごっそり大好きなゲソを平らげるようになった。さあ、千代大龍が怒ったのなんのって。 「なんでオレのゲソを食っちゃうんだ。返しやがれ。ようし、こうなったら、この恨みは土俵で晴らしてやる」 とカンカンになり、御嶽海との対戦に異常な闘志を燃やした。 こうして、平成28(2016)年春場所14日目、ついにゲソの恨みがからんだ2人が激突した。ちなみに、これが3回目の対戦で、過去は千代大龍の2―0だった。結果は御嶽海の勝ち。ゲソの恨みで気が逸る千代大龍を、御嶽海があざ笑うかのように立ち合い、右に変わって突き落とし、残すところを押し出したのだ。 負けた千代大龍が地団太踏んで悔しがったのは言うまでもない。対照的に勝った御嶽海は、 「これで対戦成績は自分の1―2。まだ負け越しているので、(うまいゲソのある)寿司店も、自分ではなく、向こうの行きつけです。でも、これからも自分が行ったときは、ゲソはあればあるだけ頼みますよ」 と涼しい顔だった。 こうして2人のゲソ対決はエスカレートする一方。当時は千代大龍が幕内下位にいることが多く、対戦する機会は少なかったが、あれ以来、2人が土俵に上がると急に土俵上の空気がゲソ臭く、いや、生臭くなったそうです。 ホントかな? 月刊『相撲』令和2年12月号掲載
相撲編集部