オランダに見る新しい図書館の役割 子供のプログラミング教室から高齢者のデジタルサポートまで
「外国語の書籍はリーディング・ピアやHLEネットワークに参加している各語学学校の所有物で、図書館はそれを置かせてもらっている状態です。その代わりに、これらの組織は図書館スペースを使って、定期的に読み聞かせの会やワークショップなどを開けるという交換取引になっています」(ウェイウェルさん) 今年9月には、市役所が主催する国際イベントも図書館内で実施された。継承語教育に携わる複数の言語グループがそれぞれのブースで文化紹介や語学学校の宣伝を行った。日本語グループも参加し、折り紙や書道のワークショップが盛況だった。 HLEの代表、ギジ・カニッツァーロさんはこうした活動や図書館の役割について、次のように語っている。 「図書館で実施されている国際ワークショップは、地元のオランダ人も加わって、インクルーシブな文化交流の場になっています。また、子供たちは図書館という公の場で継承語のイベントが開かれることで、『自分たちの言葉で公に堂々となにかをやってもいいんだ』という認識が生まれ、より自信を持つことができるようになります。図書館はすべてのバックグラウンドを持つ子供たちにもオープンな場所なのです」 しかし、こんなに図書館が賑やかになると、ユーザーからクレームも来ないのだろうか? 「中には批判の声もありますが、ほとんどの人は熱狂的に支持してくれます」と、ウェイウェルさんは答える。ある市民の声を聞くと、「図書館に来ると、歓迎されていると感じる」とポジティブなコメントが返ってきた。
進化し続ける図書館、無人の時間帯も
こうした市民の声を反映し、図書館に対する市の予算も拡大している。ウェイウェルさんによれば、オランダのウィレム=アレキサンダー国王が王位継承演説の中で、図書館が社会に果たす役割について期待感を示したことも追い風となった。 現在は市内に小さな地区図書館を4カ所新設する予定で、場所を選定中。従来の独立した建物内ではなく、公民館の一角に入居するなど、これまでとは違った形を模索している。地元の組織や住民との協力も増える見通しだ。 「地区ごとに住民のニーズも違います。どんな本がほしいか、どんなサービスが必要か、みんなの声を聞いて反映させる計画です」(ウェイウェルさん)
アイントホーフェン図書館は、今年10月30日から開館時間も延長される。現在の開館時間は10時~17時となっているが、これを19時まで延長し、17~19時はスタッフのいない「無人図書館」となる。「すでにオランダの多くの図書館で、無人図書館が導入されています。これも図書館をすべての人にアクセス可能にするための措置です」(ウェイウェルさん) さまざまな組織や企業を巻き込みながら「真の公共施設」を目指す同図書館は、市民の成長とともに、自らも進化し続けている。
取材・文:山本直子 / 編集:岡徳之(Livit)