インバウンド需要で「ホテル経営」が好調 8割のホテルが稼働率80%超、客室単価の最高が続出
客室単価(前年同期比) 3社が1.5倍以上の上昇
2023年10-12月期と前年同期の客室単価を比較した。2期比較が可能な13社(15ブランド)は、すべて客室単価が前年同期より上昇した。 上昇率の最多レンジは、20%以上50%未満で9ブランド。以下、50%以上70%未満と20%未満が各3ブランド、70%以上のブランドはなかった。 前年同期は、外国人観光客の利用は限定的で、主力需要は国内の観光客が占めていた。 最も上昇したのは、阪急阪神ホールディングスが運営する「阪神阪急ホテルズ」で56.1%の上昇だった。
客室単価(2019年同期比)コロナ禍超えが顕著
コロナ禍前の2019年10-12月期と2023年同期の5年間で客室単価を比較した。比較可能な12ブランド中、11ブランドで客室単価が上昇した。 コロナ禍前との上昇率で、最多レンジは20%以上の7ブランドだった。次いで、10%以上20%未満の3ブランド、5%未満が1ブランドで、マイナスは1ブランドにとどまった。 大半のホテルは、コロナ禍前より客室単価が大幅に上昇。上昇幅の最大は、東急ステイ(東急不動産ホールディングス)で41.8%の上昇だった。
ビジネスホテル8ブランドの稼働率・客室単価 客室単価はコロナ禍前を約3割上回る
コロナ禍前の2019年(10-12月期)から、2023年同期までの稼働率、客室単価を比較した。 ビジネスホテルで、コロナ禍前と比較可能な8ブランドの稼働率は、最低は2020年(10-12月)の58.0%だった。一方、客室単価の最低は2021年の6,794円が最安値だった。 度重なる緊急事態宣言や行動制限などで稼働率は長く低迷したが、客室単価を抑えて営業を継続するホテルが相次ぎ、単価を押し下げた。 2023年は5月の新型コロナ5類移行で、旅行や出張等の国内需要が回復した。これに伴い2023年10―12月の客室単価は1万2,339円とコロナ禍前の2019年の9,587円を2,752円(28.7%)も上回った。
シティホテル4ブランドの稼働率・客室単価、稼働率は2020年比で53.9ポイント回復
ファミリー層や観光利用が多いシティホテル4ブランドは、2020年10-12月期の稼働率は26.1%と20%台まで低下した。コロナ罹患者の療養先として施設を提供したビジネスホテルに比べ、シティホテルの稼働率は大幅に落ち込んだ。 一方、2023年は2020年比で53.9ポイント改善し、稼働率は80.0%まで大幅に回復した。 客室単価は2021年10―12月に1万904円まで低下、2019年同期(1万5,375円)比で29.0%下落した。2023年の客室単価は1万6,843円で、コロナ禍前の2019年の1万5,375円を1,468円(9.5%)上回った。 ◇ ◇ ◇ 2024年4月29日、1ドル=160円台と34年ぶりの安値を更新した。円安に伴い海外からの長期滞在者が増え、ビジネスホテル・シティホテルの需要が高まっている。大手旅行代理店のJTBは、2024年の旅行動向について訪日外国人客数が過去最多だったコロナ禍前の2019年の3,188万人を3.8%上回り、3,310万人が日本に訪れると予想している。 コロナ禍で痛手を負ったホテル業界だが、2022年秋の外国人観光客の入国基準の緩和で観光需要が急回復し、都心部を中心にホテル稼働率は上昇を続けている。ビジネスホテルは、行動制限が解除された2022年10-12月期に客室稼働率80.4%まで回復、2023年同期も81.4%と高水準を持続している。 一方、サービス従事者の人件費やエネルギー価格の上昇も重なり、客室単価は上昇が続く。2023年10-12月期は、上場ホテル12ブランドのうち、11ブランドで客室単価がコロナ禍前(2019年同期)を超えた。観光・ビジネス需要の急回復や訪日外国人客数の急拡大で、ビジネスホテル、シティホテルの客室稼働率・客室単価の上昇は続きそうだ。 人手不足が解消されないままのインバウンド需要増で軋みも生じている。東京商工リサーチが2024年4月17日に発表した「人手不足」に関するアンケート調査では、宿泊業の92.8%が正社員が不足していると回答。非正規も、すべての会社が不足と回答した。 増え続けるインバウンド需要に対し、従業員の積極的な採用、賃金改定、定着率の向上など求められる水準は高い。ビジネスホテル、シティホテル業界の待遇改善は「待ったなし」だ。 人手不足で従業員を確保できず、稼働率を上げられない施設も出始めているが、今後の成長をかけた人員確保がビジネスホテル・シティホテル各社の大きな課題に浮上している。