渋谷で画家・ミュシャ「没入体験型」展覧会 実際の作品ゼロ、映像中心に
画家アルフォンス・ミュシャの没入体験型展覧会「グラン・パレ・イマーシブ 永遠のミュシャ」が12月3日、渋谷ヒカリエ(渋谷区渋谷2)9階のホール「ヒカリエホール(A・B)」で始まる。(シブヤ経済新聞) チェコ出身のミュシャは、19世紀末~20世紀初頭の仏パリのアートシーンで一世を風靡(ふうび)。髪をなびかせた女性像に草花を組み合わせたポスター画で知られ、植物や昆虫など自然の有機物をモチーフに曲線を多用する「アール・ヌーボー」様式を代表する作家でもある。 同展は、フランス政府の戦略の一環として設立された、仏国立美術館連合に属し、国内外に向けたデジタル展示の制作・運営・配信を専門とするグラン・パレ・イマーシブ社と、ミュシャ財団が昨年、パリで開催した展覧会「Eternel Mucha」を日本向けにアレンジした展覧会となる。 2019年、パリの複数の美術館でイマーシブ展が開催されていた中で、ミュシャ財団の理事長でミュシャのひ孫であるマルカス・ミュシャさんが「ミュシャもできないか」と言ったことがきっかけとなった。同展キュレーターで同財団所属の佐藤智子さんは、イマーシブ展に足を運んだ際に「エンターテインメントとしてはOKだが、改善の余地はあると思った」と言い、グラン・パレ・イマーシブ社の準備室ができたタイミングで関係者と話し合い、「美術館として学びのあるイマーシブ展をつくらなければ我々の意義がないのでは」と、同展の企画をスタートさせた。 佐藤さんは「ミュシャのような、形式のある計算され尽くした作品を描く作家にとっては、イマーシブを使い構図を分解して、どういう要素で構成されているのかなどを文字で説明するより分かりやすく適切」と考える。さらに大型作品の持ち運びは難しいが、「イマーシブがあると等身大で見せることができ、細かい所まで見ることができる」とアピール。Bunkamuraザ・ミュージアムのキュレーター宮澤正男さんは、「(実際の)作品は一点も(展示してい)ないが、イマーシブという最先端のテクノロジーが、こんなにもミュシャに合うとは思っていなかったと思うくらい技術と絡み合っていて、満足度の高い展覧会になっていると思う」と話す。 場内では、映像を中心にミュシャの人生や画業、後世への影響などを紹介。随所で、ミュシャの故郷であるモラビア、ミュシャのアトリエ、6年間の専属契約でミュシャが舞台ポスターを手がけた仏舞台女優サラ・ベルナールをイメージした香りなど、同展のためにパリの調香師が作った香りをディフューザーで拡散する演出も行う。 冒頭の「ミュシャ:アイコン/1900年/ユートピア」は、壁全面(高さ6メートル)と床にプロジェクションで映像を投影。ミュシャの作品世界を3幕構成で追う。第1幕「アイコン」では、生い立ちなどを振り返りながらさまざまな作品を投影。第2幕「1900年」は、その後の創作活動の「ターニングポイント」となった1900年のパリ万博で手がけたボスニア・ヘルツェゴビナ館の内装を写真・資料を基に映像で「再現」。第3幕「ユートピア」では、同館制作に際してスラブ民族の歴史を調査したことから制作された、晩年の絵画の連作「スラブ叙事詩」にフォーカスする。 第2章は、ミュシャの画業の「転換期となった」作品や「代表作」を織り交ぜながら、生涯を年譜で追う「ヒストリー」。「スラブ叙事詩」につながる挿絵本「主の祈り」のモニター展示や、ホログラムで表現するミュシャの姿に実際の肉声を重ねて作品に込められた哲学を紹介する「ミュシャの声」コーナーも展開する。第3章「ミュシャのアトリエ」は、アトリエでのミュシャの写真や作品制作のために撮影されたモデルの写真、制作風景を映像で紹介する。 ミュシャは舞台女優サラ・ベルナールが演じた戯曲「ジスモンダ」のポスターで自身の様式基盤を確立した。続く第4章「ミュシャのインスピレーション」では、ミュシャが手がけたポスターの人物像を実在する俳優に置き換え、作品に描かれている衣装をまとった姿の3Dアニメーションを上映する。 最終章「インフルエンサー、ミュシャ」では、画家・天野喜孝さんやアートディレクターのジュリアン・ジョルジェルさんら国内外の現代作家のインタビューや映像、それぞれの作品をタペストリーで展示。漫画家・波津彬子さんの2007(平成19)年の原画展のポスターとミュシャの「遠国の姫に扮(ふん)するサラ・ベルナール」、天野さんの「アスラルーン戦記2 王子二人」とミュシャの「ビザンティン風の頭部『ブロンド』」など、作家と関連するミュシャの作品を並べて紹介している。 開催時間は11時~20時(今月31日は18時まで)」。入場料は、平日=一般2,900円、大学・高校生2,000円、中学・小学生1,200円、土曜・日曜・祝日=同3,300円、同2,400円、同1,500円ほか。2025年1月19日まで(今月19日と1月1日は休館)。
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